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ソニーイメージングギャラリー 銀座

曽根原昇 作品展 冬に紡ぎき
- On the Baltic Small Island -

窓辺に座り、ニットを編む年老いた婦人。部屋には、カーテン越しの柔らかな冬の光線が差し込み、暖炉の温もりが写真から伝わって来るような優しさに溢れた一枚。猫を抱いた女性が、大きな犬と戯れる姿をユーモラスに捉えた一枚。そして、老女が愛犬を優しく抱きしめる姿が写ったもう一枚の写真は、写実主義の絵画のように重厚な雰囲気を醸している。作品は、撮影地の情景や、そこでの暮らしぶりなどが一本のストーリーとなり見る者の心に響いてくる。
すべての作品の紹介が終わった時、曽根原氏は「ここは何もない所ですが、本当に素敵な土地なんです」としみじみと呟いた。

この作品展の撮影地である「キフヌ島」は北欧に近いエストニア共和国の南西にあり、島の大きさは、長い方の辺でみても約7km、人口約600人の小さな島だ。
曽根原氏とキフヌ島との出会いは5年前に遡る。

「バルト三国に因んだフェスティバルのために撮影したのがきっかけとなり、それ以来、毎年キフヌ島を訪れています。観光的なものは何もない島です。ただただ牧歌的な風景があるだけで、本当にこの島に何百人もの人が住んでいるのか?疑わしくなるほど人もまばらで、人々の暮らしぶりも静かです。何もない島なのですが、居心地が素晴らしくいい。島の住民は朴訥で静かな人が多く、こちらから話しかけない限り、向こうから話しかけてくることは、ほとんどありません。でも決して排他的ではなく、日本人の私をちゃんと受け入れてくれています。日本人が珍しいということもありますが、毎年訪れていると“また来たんだね”という感じが伝わってきます。キフヌ島の魅力は、そこに行かないと分からない。この島は、僕自身もたまたま訪れた場所ですが、大陸の向こうの知らない場所にも、心から素敵だと思える場所や人の暮らしがあることを教えてくれました。遠く離れた小さな島で僕が素直に感じたことを、作品展を通じて多くの方々と共有できたら嬉しく思います。」

曽根原氏はキフヌ島を題材とした作品展を一度開催している。前回の作品展では春と夏に撮影されたもので構成した。そして、今回は、秋と冬に撮影した作品が中心となる。
北欧に近いキフヌ島の秋は太陽の位置が低く一日中、夕方のような斜光線が島を覆う。冬は寒さが厳しく日照時間はかなり短い。そんなキフヌ島の静かな秋の風景や寂寞とした冬の風景。そして、島に暮らす人々の素朴な日常を捉えている。また、前回の春夏編も4Kテレビでスライドショーとして映像が流れる。
大陸の遠い向こう側に、こんな素敵な土地があり、人々が暮らしていることをあたかも小旅行をするかのような感覚で楽しんでいただきたい。

曽根原そねはら のぼる プロフィール

1971年生まれ・愛知県出身。信州大学大学院修士課程を修了。2006年よりフリーランスとなり、2010年に活動拠点を長野県より関東地方に移す。現在は雑誌・叢書・単行本などの撮影をメインにしながら、カメラ誌やウェブ等でカメラやレンズについての執筆も手がけている。

作品展歴

2010年
「猫、光と温もりの中に ~猫と牛と人の穏かな係わり~」 エプソンイメージングギャラリー エプサイト
2013年
「エイレホンメ 白夜に過ぐ」 リコーイメージングスクエア新宿 ギャラリーI&II