SONY

ソニーイメージングギャラリー 銀座

松元秋朗 作品展 THE WAVE  —大地の軌跡—

THE WAVE。 そこは音が全くない世界。そしてその不思議な様相と存在感に圧倒されるばかりで、何かを感じることもない“無”の世界だ。
悠久の時の流れが生みだした奇跡の地層でありながら、人の筋肉を連想させるようなうねりの造形は地球が生きていることを知らせてくれているかのようだ。

日が昇り、また日が沈み、新しい命が生まれ、天寿を終えた命が土に還って行く。私たちが日夜生きている時の流れとは違う次元の時間軸で生きている地球。この場所では地球の営みに触れることができる。

東京、ミラノやハワイで生きるためにただひたすら写真を撮る仕事をしてきた。そんな日々の中で数年前にTHE WAVEのことを知り、心の中でその存在は日増しに大きくなっていった。これからいつまで自分が写真家として撮り続けることができるか自分にもわからない。THE WAVEを撮りたい———いつしかその想いは自分でも止められなくなっていた。

THE WAVEは、アメリカ政府が1日に立ち入ることができる人数に制限を設け、レンジャーを配置し、厳しく保護していることは良く知られているが、その入り口へたどり着くまでの行程もかんたんなものではない。ハイクリアランスのジープで、砂漠と岩が交互に現れる道なき道を行き、雨の時だけ出現する川をいくつも越えて行かなければならない。ある時は吹きすさぶ雪に行く手を阻まれ、それ以上進むことを断念して引き返したことさえある。もう二度と行かない方が良いのではないかと思ったこともあった。だがしかし、しばらくするとまた行きたいという想いが強くなり、三度訪れた。

これからも地球の上の“特別な場所”を撮って行きたい。長きにわたり人間の眼に触れていなかった場所に触れたい、そして誰かに見てもらいたい。これからも自分が写真を撮ることができる限り。

2015年7月
松元秋朗

THE WAVEについて

アメリカ合衆国アリゾナ州のバーミリオン・クリフ国定公園(Vermilion Cliffs National Monument)のコヨーテ・ビュート(Coyote Buttes Permit Area)にある珍しい地層のエリア。ユタ州とアリゾナ州にまたがる「グランド・サークル」と呼ばれる一帯に位置している。

その波のような形状から“THE WAVE“と呼ばれているこの地形は、砂丘が固まってできた砂岩を鉄砲水が浸食して形作り、鉄を含む地層が露出することで独特の色合いが形成されたと言われている。

THE WAVEへの立ち入りは1日あたり20人に制限されている。そのうち半分にあたる10人はインターネットで抽選が行われ、残る半数はカナブ(Kanab)にあるビジターセンターで抽選が行われる。

幸運にも抽選に当たった人には、10カットぐらいの写真付きの目印が記載されたB4ぐらいの紙を渡される。登山口となるワイヤーパス・トレイルヘッド(標高1494m)までは車で移動が可能。そこからTHE WAVE(標高1585m)への片道約3マイル(4.8㎞)は、ビジターセンターで渡された紙を頼りに自分で歩くしかない。水は1人1日当たり少なくとも1ガロン(3.75ℓ)を持っていくことが推奨されている。車を降りてから歩く時間は2,3時間。近づくにつれ動物も見なくなり時折トカゲを見かけるだけとなる。

松元まつもと 秋朗しゅうろう プロフィール

経歴

1982年
写真家 吉村則人氏のアシスタントフォトグラファーを務める。
1988年
イタリア・ミラノに渡り、アシスタントフォトグラファーとして活動。
1989年
日本へ帰国。フリーランスのフォトグラファーとして主にファッション、コマーシャル分野で活動。
広告、雑誌、イベントなど、幅広い分野で撮影、プロデュースを手掛ける。
1994年
東京写真専門学校(現、東京ビジュアルアーツ) 写真科講師
1998年
バンタンデザイン研究所 写真科講師
2001年
ハワイ・ホノルルにProject M Intl.を設立。ウエディング、広告、イベント撮影などを手掛ける。