©Rita Kluge
Vol.2
「母なる大地」への深い感謝
〜写真家メリッサ・シェイファーが
伝えたい想いとは
ネイチャー/ワイルドライフ フォトグラファー
メリッサ・シェイファー
(Melissa Schäfer)
北極圏を舞台に、ホッキョクグマへの深い愛、そして自然と環境保護をめぐる洞察力が作品の基盤となっているドイツ人写真家、メリッサ・シェイファー。「母なる大地」をテーマに、卓越した女性写真家たちの作品やストーリーを世に問う写真雑誌『MOTHER』の編集長としても活躍する彼女の原動力に迫ります。
メリッサ・シェイファー(Melissa Schäfer)
ネイチャー/ワイルドライフ フォトグラファー
ドイツ・ハンブルク出身。ポートレートやクリエイティブ分野でのフォトグラファーとしてキャリアをスタート。その後、北極圏に撮影の舞台を移し、ホッキョクグマへの深い愛情、自然と環境への強いコミットメントが作品の基盤に。2020年、パートナーのフレドリック・グラナス(Fredrik Granath)とともに写真集『Polar Tales』を世界各国で出版。「母なる大地」をテーマにした写真雑誌『MOTHER』の創設者兼編集長としても活躍中。スウェーデン・ストックホルム在住。
「優れたストーリーやイメージを人々に届ける助けになりたい」
メリッサ・シェイファーが雑誌『MOTHER』を創刊したきっかけは、写真家としての自身の経験でした。「写真家の多くはきちんとした評価を受けられていません。私自身も、そのことにうしろめたさを感じています」とメリッサは打ち明けます。「たとえばインスタグラムの画面をスクロールしていても、投稿者が誰なのかほとんど気に留めることはありません。すばらしいイメージを目にしても、キャプションを読まずにすぐに次のイメージへと移ってしまいます。そこにかけられた労力も、込められているはずの思いも——愛や、情熱、そして痛みまでも——すべて顧みることもないままに、私たちは通り過ぎているのです」
優れたストーリーやイメージを人々に届ける助けになりたいという思いが、メリッサを『MOTHER』創刊へと導くことになります。テーマの中心にあるのは女性の視点で見つめる「母なる大地」。創刊号には、14名の卓越した女性写真家による写真作品とストーリーが掲載され、環境保護写真の先駆者でSony Artisanのメンバーでもあるクリスティーナ・ミッターマイヤー(Cristina Mittermeier)が序文を寄せています。
ソニーユーザーの写真家では、アンナ=クララ・ノイナー(Anna-Clara Neuner)、リサラブ・ベックマン(Lisalove Bäckman)、リサ・ジールバーグ(Lisa Sihlberg)、メルチェ・ロベラ(Merche Llobera)、モリー・フェリル(Molly Ferrill)らも特集されています。メリッサ自身も、自然写真家として制作の主題にしている北極圏の写真作品を複数寄稿、ホッキョクグマの苦境とその生態環境の脆弱さを伝えています。
「氷が溶け、クマが死にかけているところを想像するだけで、
胸が張り裂けそうになる」
「撮りたい完璧なショットというものはありません」とメリッサは言います。「元気なクマたちに会いたいーー私の原動力は、それに尽きます。気候変動を伝える撮影を目的に北極圏に行く人もいますが、私はそうした写真を求めてはいません。記録のために撮影することはありますが、私が見たいのは、元気に太った親子のクマたちが狩りをしている姿です。その姿から、そこには状態の良い氷があって、あたりは美しい氷河で囲まれていることがわかるからです。氷が溶け、クマが死にかけているところを想像するだけで胸が張り裂けそうになります。最悪なのは、クマをまったく見かけなくなってしまうことです。そうなったらもう手遅れ、私にできることはありません。だから私にとって、健康なクマたちこそが理想のショットなのです」
「α1に搭載されたリアルタイム瞳AFは私の人生を変えてくれた」
「写真を撮る際に鍵となるのは、動物たちのキャラクターをありのままに伝えること」とメリッサは言います。そこで重要なのは、動物たちの瞳です。「α1に搭載されたリアルタイム瞳AFは私の人生を変えてくれました!」とメリッサは告白します。「以前は別のデジタル一眼レフカメラを使用していました。撮影時にはホッキョクグマの瞳をシャープにとらえたつもりでいても、あとからコンピュータでチェックしてみると、ピントが耳や毛に合っているなど、うまく撮れていなかったのです。α1を使えば毎回きちんと瞳にピントが合うので、格段に撮影しやすくなりました。特に北極圏では指先が凍りつき、グローブを嵌めたまま撮影することもあるので、なおさら助かります」
「一瞬でスワイプして消してしまうのではなく、
ちゃんとここにあるという実感——
読者が物理的に手に取れるものにこだわった」
雑誌を制作する場合、ウェブサイトやPDF形式にするなど、より簡単な方法もあります。しかし写真集の出版経験もあるメリッサは、『MOTHER』を作る上で、読者が物理的に手に取れるものであることにこだわりました。
「家でゆっくり雑誌をめくっている時にしか得られない感覚があると思います。初校刷りを読んでいると、文字も文章も、スクリーンで読むのとはまったく違った感情が湧いてきます。手に取るという行為があるだけで、時間をかけたいという気持ちが生まれてくるのです。目にしたイメージを一瞬でスワイプして消してしまうのとは、まったく異なる感覚です。ちゃんとここにあるという実感が持てる、だからそのことについて語りたいという気持ちが芽生えるのでしょう」
『MOTHER』は、メリッサとパートナーのフレドリック・グラナスによる環境保全プロジェクト「THE MOTHERBEAR」の一環として出版されています。二人は北極圏で撮影された写真作品を通じて、地球が傷つきやすい状態にあること、また地上で暮らす私たちが地球を保護する役割を担っていることを伝えるために活動を続けています
「ホッキョクグマに起きていることを見つめることで、
人間の未来を見通すことができる」
「私たちは、ホッキョクグマの目を通して北極圏のストーリーを伝えようとしています」とフレデリックは説明します。「ホッキョクグマに声を与えたい。なぜなら、クマたちが語ることは、すべての人たちのストーリーでもあるからです。ホッキョクグマに起きていることを見つめることで、人間の未来を見通すことができます。私たちを含め、野生動物や自然を扱う写真家たちの多くは、この地球を自分たちのホームだと感じられるような作品を遺したいと思っています。自宅で床にコーヒーをこぼしたら、すぐに拭き取りますよね? 家が火事になったら火を消そうとするはずです。地球はみんなのホームです。ですが、この星はすでに汚染されているのです」
『MOTHER』を通じ、地球の大自然をめぐる写真家たちのストーリーを伝えることで、メリッサはこれまで気候変動に関心を持たなかった人たちともつながりたいと願っています。
「自然に関心がない友人に『MOTHER』を見せたことがあります。彼女は写真家ではないのですが、雑誌に目を通し、記事を読むとすぐに環境問題について質問してくれました。興味を持ってくれたのです。このように別の角度から人々の心をつかみ、立ち止まって考える時間を提供することもできるのだとわかりました」
「ソニーは、すべてを話し合えるすばらしいパートナー。
互いに力を合わせれば、大きなインパクトを与えられるはず」
メリッサとフレドリックは二人ともソニーのカメラで撮影していますが、『MOTHER』を創刊する上で、ソニー・ヨーロッパから撮影以外の支援も受けています。
「必要な時にはいつでもソニーが側にいてくれると感じています」とフレドリックは言います。「技術的なサポートはもちろん、私たちのメッセージをシェアし、新しい読者に届ける手助けもしてくれます。二人の活動やその動機について、また持続可能な未来を実現するニーズまで、すべてを話し合えるすばらしいパートナーです。ソニー側も私たちから学ぶことがあるのではないでしょうか。互いに力を合わせれば、大きなインパクトを与えられるはずです!」
「同じ方向を向いているという実感があります」とメリッサも続けます。「関心を共有し、楽しみながら共に活動しています。でも何より重要なのは、それが正しい目的のためであるということです」