AI & Cloud Service Technology Report01 Creators' Cloud 撮影プラットフォームに、 ソニーのクラウド技術。
Outline
「Creators' Cloud」は、ソニーの先進的なカメラ技術とクラウドAIを掛け合わせて実現した「クリエイターの撮影から制作全般までをサポートするプラットフォーム」です。映像をクラウドへアップロードするだけで素材の受け渡しができ、リモート環境での制作体制を構築。時間や場所の制約からの解放を実現しています。さらに、AI技術による映像制作や映像解析の自動化により、リソースの有効活用や制作業務の効率化に貢献。報道現場や番組編集、イベント中継などさまざまなシーンで活用されています。従来の法人向けに加え、2023年2月に個人向けの提供を開始しました。
Project Members
ソニー株式会社
イメージング事業
プロダクト&サービスプランニング
藤井
Creators' Cloudの動画編集クラウド
サービス『Master Cut (Beta)』の企画を
立ち上げ時期から担当。
ソニー株式会社
イメージング事業
クラウドサービスエンジニア
小川
『Master Cut (Beta)』のUIのシステム設計を担当。フロントエンドチームのチームリーダーを務める。
※ 所属・仕事内容は取材当時のものです。
クラウドサービスだから実現できる
瞬時で手軽な動画補正
動画クリエイターにもたらされる恩恵について教えてください。
例えば音の調整ひとつとっても、従来は撮影時間の端から端までをチェックする必要がありました。
これに対して、Master Cut (Beta)では、膨大な音声データをニューラルネットワークで学習させたAIによる自動解析で「人の声」「音楽」「風音」「その他雑音」の4つに音源を分離することで、ユーザーは特定の音だけを選択し補正することができます。例えばカフェでのインタビュー動画なら、店内の音楽や周囲の雑音をボリュームダウンし、人の声だけをボリュームアップするといった、動画クリエイターなら必ず経験のあることが簡単にできるようになります。
クラウドサービスとして提供される利点はなんですか。
また、『Master Cut (Beta)』でいえば、大幅な作業負荷軽減につながる点が挙げられます。動画の補整処理は相当なマシンパワーを要するので、ローカルではハイスペックPCで何時間も作業する必要がありました。『Master Cut (Beta)』を活用すれば、PCの性能にかかわらず高度な動画の補正作業がクラウド上でできるようになります。Webブラウザで動かせるので、ソフトをインストールする必要もありませんし、タブレットでも使用可能です。クリエイターを作業環境の制約から解放できたのは、クラウドサービスならではの利点だと考えています。
ユーザーのヒアリングをもとに
社内で連携し、
使いたくなるUI/UX*を開発
*UI(ユーザーインターフェース)・UX(ユーザー体験)
特に重視したことはなんですか。
初期の頃は厳しい意見をいただくことも多かったですが、「AIが一括で音補整してくれると、全体の尺を確認する必要がなくなって助かる」といった、サービスの核となる部分の構築につながる重要な意見にアクセスできたのは大きいことでした。ヒアリングをはじめてから1年経つ頃に、「指摘した課題が毎回改善され、サービスが進化している。これならぜひ使いたい」といったポジティブな意見がもらえるようになったのは嬉しかったですね。
さらに言えば、AIチームや他の部署のチームと密に連携をとることもありました。音補正の機能について、R&Dから提供されたAIモデルでは性能が思ったほどでなかったことがあって。学習データの追加やパラメータ調整等で、先行して機能を実装していたスマートフォンのXperia™チームを巻き込みながらその点は解決していきました。ソニーは他組織との連携も多く、共創していく文化が根付いているので、年次にかかわらず互いの意見を尊重し合い、真摯に技術の開発に向き合っていく風土がソニーらしい自由闊達なものづくりの根幹にあるのだと感じます。
あえて余白を残して、
クリエイティブな作業を
純粋に楽しめる環境へ
こだわった点はありますか。
『Master Cut (Beta)』では、ユーザーがどのボタンを押したかなどの操作ログを取っていて、それをもとにより使いやすい画面レイアウトを検討して実装しています。例えば、補正作業から補正後のクリップ出力までの一連の操作ログを分析し、ユーザーが操作に迷っているであろう箇所やこちらの思惑とは異なった使われ方をしている箇所を見つけました。これらの分析をもとに内部で検討し、ボタンの位置などのレイアウト変更を行いました。
『Master Cut (Beta)』は時間がかかる単純作業を自動化することで、クリエイターが自分の創造力を発揮できるようにサポートするツールです。目指しているのは、"アシスタントが一人増えたような体験"を得られる動画編集サービス。クリエイターから創造する仕事を奪ってしまうことは、私たちの本意ではありません。
実際ユーザーにヒアリングすると、「自分のクリエイティビティを発揮できるところは自分でやりたい」という声が多いです。だからこそ、気が進まない作業にしぼって効率化し、クリエイティブな作業にもっと時間を使えるよう、機能にも余白を残すことが重要だと考えています。
「Creators' Cloud」を
ソニーを代表するサービスに
将来的にはクリエイターのみなさんに新しい価値を提供していく中で、ソニーでテクノロジーと人間が共存共栄し、豊かな体験を生み出す世界を実現したいですね。
長期的には、ソニーのカメラユーザーの誰もがCreators' Cloudを使うような、ソニーを代表するメジャーサービスに育てていきたいです。私自身ソニー製品を愛用していますが、ソニーと聞いて自分が思い浮かべるのも、テレビやゲーム機、携帯電話端末などのハードウェアが多くて。お客様にとっても、ソニー=ハードのイメージは強く、ソフトの印象はまだ根付いていません。だからこそ、私たちにもチャンスがあると考えています。