1969年、神奈川県横須賀市生まれ。
1995年より新潟県と長野県にまたがる名峰・雨飾山を取材した写真展『あまかざり』(1998年)、日本列島の水の姿に挑み、水の美しさや水が醸し出す独特の風景を追った「水のほとり」(2001年)、列島の森林を歩き続けた『森の瞬間』(2004年)、広大な山岳風景をとらえた『大きな自然 大雪山』(2008年)をそれぞれ富士フォトサロン各地で開催。独自の視点で、自然風景の醸し出す微妙な空気感、透明感を表現した作品の発表を続ける。
写真集に『あまかざり』(1998年・愛育社)『水のほとり』(2001年・同)、2005年、国際野生写真協会(IFWP)主催ネイチャーフォト・ブックオブザイヤー2005グランプリを受賞した『森の瞬間』(2004年・小学館)、『水物語』(共著、2007年・平凡社)『大きな自然 大雪山』(2008年・小学館)がある。
2007年1月より東京都写真美術館の企画展『地球の旅人』を開催(同年6月、松本市美術館に巡回)。2008年12月、福島市写真美術館で企画展 『新たなる高みへ』を開催。また、『大きな自然 大雪山』の作品が、北海道・東川町文化ギャラリーに収蔵される。
2011年2月に、デジタルカメラを駆使して列島各地の自然風景を見つめ直した写真集『四季の宝物』(日本写真企画)を出版。同名の写真展をキヤノンギャラリー各地で開催。ロンドンに拠点を置くEAST- WEST ART AWARD 2011-2014の写真部門の審査員を担当。日印グローバル・パートナーシップ・サミット2011に自然首都・只見の写真を提供。
2012年、朝日新聞1月1日付において、タレント『嵐』プロデュースの自然写真に、岡山県哲多町(現新見市)の写真『ヒメボタルの森』を提供。また、国際交流基金主催の写真展『東北--風土、人、くらし』の自然風景部門を担当し、作品はニューヨーク、北京をはじめ、5ヶ年計画で世界20カ国以上を巡回している。本邦では、2014年に福島県立博物館、遠野市博物館で開催された。
2013年、モーターパラグライダーのパイロット証を取得。同時に、ドローンを駆使して自然風景を撮り始め、すでに全国100ヶ所以上で取材を敢行。並行して、自然首都・只見の自然を撮り続ける。
写真教室・輝望フォトグラファーズ主宰、日本写真家協会会員、日本自然科学写真協会理事、第三級陸上特殊無線技士。
従来の風景写真は、地上でカメラを構える、あるいは三脚を使用して目の前の風景を切り取る手法が一般的です。また、橋や展望台など見下ろすように俯瞰で撮影できる場所もあります。
しかし、いずれの撮影方法や撮影シーンでも、その視点には制約がありそれだけ表現の自由度にも限界がありました。ところが、この作品展では“空撮”という方法によりその限界を一気に飛び越えた、これまでに見たこともない作品が展示されています。作品をご覧になった瞬間、そのダイナミックで広がりのあるスケール感に圧倒され、ドローンによる空撮という新しい写真表現の可能性を体験できると思います。
その限界を一気に飛び越えるために用いた撮影方法が、「ドローン(マルチコプター)」※にカメラを搭載し、上空から自由に撮影するという方法です。“上空”からという新しい視点からの撮影に至った経緯やメリット、そして作品展の内容などについて、林氏にお聞きしました。
※ドローン、マルチコプターいずれの呼び方もされており、飛行原理はヘリコプターとほぼ同じ。4~6つほどのローターを搭載した回転翼機で、無人で飛ばすラジコンヘリコプターの一種。
— まず、作品展はどのような内容になっているのでしょうか?
林「日本列島を北は北海道、南は沖縄まで様々な風景を空撮した作品を展示します。日本には美しい四季の風景があり、それぞれが独自の美観を呈してくれています。その四季の美しい風景を空撮した写真を、できるだけ多くお見せできればと思い、Part1を春夏編、Part2を秋冬編という2部構成にしました。日本の四季の風景をドローンによる空撮という新しい表現による風景写真を、ぜひ会場で鑑賞していただければと思っています。」
— なぜ上空からの撮影という発想になったのでしょうか?
林「30年近く日本各地の自然風景を撮影してきました。時の経過にともない姿を変えて行く風景ですが、それは自然なことですし、ある程度予測していました。それでも自然災害や経年変化によって、これまでの眺望が見られなくなってしまうことが多くなると、自然風景の新たな撮影手法が欲しくなったのです。そこで4年をかけてモーターパラグライダーのライセンスを取得し、撮影を試みましたが気温が低い冬場や山間部では手が凍傷になったこともありますし、予期せぬ突風やアクシデントによるケガなどを考慮し、ドローンからの空撮に切り換えました」
— ドローンを用いた撮影のメリットやヘリコプターなどからの空撮との違いは何ですか?
林「ドローンからの撮影では、数十メートルから約150メートル上空という、これまで私達が経験したことがない全く新しい視点から撮影できます。また、現行の航空法ではヘリコプターやセスナ機では高度150メートル以下を航行することができません。ドローンはその点自由です。そして地上に近い距離から撮影すると、従来の一般的な“空撮”では表現することができない、より強い立体感、奥行きを感じさせることができます。改めて列島各地を巡り、ドローンを使い撮影したのですが、撮り尽くされたと思われる有名な景勝地であっても、上空からの新鮮な風景が撮影できるのです。」
— 具体的には、どのようにして撮影をしているのでしょうか?
林「まず、カメラジンバルという機具を使ってカメラをドローンに装着します。カメラジンバルはラジコンショップなどで売られています。露出は、こういう絵柄にしたいというイメージに合わせて、マニュアルモードで露出を固定します。上空から送られてくる映像をモニターで確認しながらフレーミングし撮影しますが、機体を安定させるには非常に高度な操作技術が必要です。また、地上から露出などの設定を変えることができないため、設定の変更はドローンを一旦着陸させて再設定します。それだけ、ドローンからの空撮には手間と時間と技術が必要なのです。露出設定の説明でも話しましたが、ドローンを飛ばす前に、この撮影地では上空からだとこういう写真が撮れるだろうとイメージしてから飛ばします。しかし、実際にはイメージとは違うことはしばしばです。その意外性や新たな発見など、筋書きと違う画像を撮影できることが空撮の面白さであり、これからの新しい写真表現への可能性だと思っています。」
— どんなカメラを使っているのでしょうか?
林「2013年11月からソニーのα7シリーズを使用しています。カメラ、レンズを含め1kgほどしかないため、フライト時間が20分以上に延びました。以前は、通常の一眼レフカメラでしたが、ボディもレンズも重いためドローンのバッテリーが数分間しか持ちませんでした。また、2400万~3600万画素相当とプロ用一眼レフ並みの高精細さで撮影できるため、画質のクオリティーを保ったまま写真を大きく引き伸ばすことが可能になりました。“軽量小型で高画質なカメラ”という条件は、これまで私が空撮による写真展のために求めてきたことで、実に画期的なことで、そのメリットの大きさは計り知れません。さらに近年は、強力な手ブレ補正機能(5軸カメラ内手ブレ補正)を搭載したα7IIを撮影機材に加えたことにより、低速シャッターでも安心して撮影ができるようになりました。基本的には高精細な画像が撮影できるローパスフィルターレスのα7Rがメインですが、気象条件や撮影時間帯などによりブレに強いα7Ⅱで撮影という使い分けをしています。」
— ドローンを使った空撮で注意する点はありますでしょうか?
林 「ドローンを飛ばせる場所は、道路交通法、航空法そして各自治体の条例などで規制されています。ですから、各法令を遵守した上で、ドローンを飛ばすエリアを管理している役所などに注意事項を確認して撮影許可を取る必要があります。今回の作品展の撮影に関してお話をすると、私の場合は主に現地ガイドや観光協会と連携しながら撮影許可を取って撮影を行ないました。例えば、国立公園の場合は所轄の森林管理署(林野庁)や環境省(自然保護官事務所)への連絡や許可申請が必要です。また、空港に近い場所(自衛隊駐屯地も同様の扱い)では航空管制事務所への書面での許可申請や、河川上の空撮では国土交通省への許可申請が必要でした。ドローンを使った空撮の場合は、基本的には撮影許可が前提となり、その点が一番神経を使ったところです。」
— ドローンがあれば誰でも空撮できるのでしょうか?
林「もちろん誰でも空撮は可能です。しかし、撮影する以前にドローンを自由自在に操ることができなければ空撮は不可能です。ドローンの操作は決して簡単ではありません。オート機能も搭載されていますが、上空では上昇気流、下降気流、乱気流などが発生しますのでオート機能だけでは、そうした自然現象には十分に対応できません。だから、マニュアル操作で機体を安定させる高度なテクニックが必要です。そして、これが最も重要なのですが、ただ上空から撮影するだけでは作品として成立しません。地上で素晴らしい作品が撮れる感性や技術がなければ、空撮で感動的な作品を撮ることはできないと思います。素晴らしい写真を撮る、という情熱と努力と工夫は空撮でも地上での撮影でも、その姿勢は同じです。2013年より列島各地の自然風景をドローンを使って撮影してきました。上空150m以下で自由な飛行が可能になったことで、鳥の目線だけでなく、時には昆虫の目線でホバリングをしながら撮影した作品などを展示致します。作品展では、これまで見たこともない驚きと感動を共有できるものと自負しております。」