1957年東京生まれ、日本大学藝術学部写真学科卒業。80年出版社に入社、雑誌・書籍の編集、そして多くのジャンルのビデオマガジンや映像の制作や監督に携わる。社員時代に監督した「花に死にせば」が評価され、映画監督デビューを果たす。93年に退社。95年「スパンキング・ラヴ」で一般映画に進出。96年には「イグナシオ」を撮る。2005年の実験映画「エロス+廃墟」では、圧倒的な映像美を展開させた。廃墟を題材にしたDVD作品では自ら撮影編集を行い、写真と動画の中間領域で、独自の深く静謐な映像世界を作り上げている。また廃墟紀行の著書もある。
劇場公開作品
- 1992年
- 「ザ・いんらん」(国映)
- 1995年
- 「スパンキング・ラヴ」(大映/JVD他)
- 1996年
- 「イグナシオ」(大映/テレビ東京 他)
- 2005年
- 「エロス+廃墟」(アップリンク)
DVD作品
- 2003年
- 「廃墟ロマネスク」(マジカル/ポニーキャニオン)
- 2005年
- 「廃墟幻影」(マジカル/エイベックス)
- 2006年
- 「アンダーグラウンド 地下世界」(マジカル/ジェネオン)
- 2008年
- 「石棺と再生 チェルノブイリ」(マジカル/ケンメディア)
- 2008年
- 「忘却と記憶 アウシュヴィッツ」(マジカル/ケンメディア)
- 2009年
- 「戦争遺跡」(マジカル/ジェネオン)
著書
- 2005年
- 「廃墟、その光と影」(写真/中筋純(共著)、東邦出版)
- 2005年
- 「愛という廃墟」(写真/中筋純(共著)、東邦出版)
- 2010年
- 「戦争廃墟行」(学研)
廃墟となった建物。かつて、そこには人々の営みがあり、いつもと変わらない日常が日々繰り返され、建物もその存在感を主張していたに違いない。しかし、様々な理由から、いつしか人々は去り周囲は荒れ果て廃墟となっていく。
“時”は毎日、毎月、毎年、確実に刻まれ、それに連れて廃墟も徐々に風化の度合いを深める。
田中氏の作品は、そうした廃墟と化した建物や巨石をモチーフに植物、水、光といった要素をデジタル的に丹念に合成し1枚の写真に仕上げたものだ。ひとつの風景を、もうひとつの風景に重ね、どこにもないはずの風景を創りだしている。
粒状性を持たせた重厚で色相や彩度を抑えた写真には、朽ちたコンクリートをむき出した建物、不思議な存在感を放つ巨石、絡みつく植物と水。それらが織りなす空間は、なんとも怪しく謎に包まれている。しかし、不思議なことにすべての作品を見終わったとき、謎に包まれているはずのこれらの作品は、なぜか穏やかな気持ちをもたらしてくれもする。どの作品にも、あたかも落ち着ける居場所を見つけたかのような、安らぎさえ覚える。1枚1枚から伝わってくる心地よいノスタルジーこそ、田中昭二氏の作品の大きな魅力なのだ。
「気になっている廃墟や巨石をしばしば訪れています。すべてが過剰に推移してゆく現代社会の中で、置き去りにされ、媚びることなく、潔く、ただ在り続ける。ぼくにとっては、数少ない落ち着ける場所のひとつです。廃墟に魅かれるのは、人間の深いところにあるノスタルジーが根源にあると思います。リアルな廃墟ではなく、概念としての廃墟。激しく風化し朽ちてしまったそれは“やがて土に還る”という自然で穏やかな光景に見えているのかもしれません。インターネットやそれを利用するツールの急速な普及などもあり、今の世の中は色々な意味で“つながる”ことを強く要求される社会です。この接続過剰の状態が続くと誰だって疲れます。どこかで切断するという意思を持たないとダメな時代です。見捨てられた廃墟というのは、接続がきかない“圏外”なのだと思う。だから、そこに安らぎを感じるのではないでしょうか。この作品展は、“勇気を持って逃げよう、切断しよう”というぼくのメッセージでもあります。そして作品展会場に訪れた方々にとり、心を空っぽにできる“圏外”であればいいなと思っています。作品をご覧になりながら、つかの間の切断のひとときをすごしていただけたらと心からそう思います。」