SONY

ソニーイメージングギャラリー 銀座

水口博也 作品展 ORCA 1982-2015

巨体を宙に躍らせる力強さで見る人を畏怖させ、奥の知れない知性の片鱗を見せて想像力をかきたてる。この動物をそばで見て、とりこにならなかった人をぼくは知らない。

ぼく自身、1982年にカナダ、ジョンストン海峡ではじめて野生のシャチを目にして以来、結局いまにいたるまで撮影をつづけることになった。ほかの動物や自然も併行して撮影しているけれど、片ときも頭のなかから離れなかった被写体は、シャチだけだ。
当初、ジョンストン海峡からはじまったシャチの撮影は、その後、メキシコのコルテス海、ノルウェー北極圏のロフォーテン諸島、アルゼンチンのバルデス半島から南極半島を含む、世界各地の海をカバーするまでになった。そして、いまでは——ぼくが撮影をしはじめた三十数年前には考えられなかったけれど——北海道の羅臼や釧路など国内でも日常的にシャチが観察、撮影できるようになっている。
何故、これだけ異なる場所で、シャチを見たいと思ったか。それは、世界各地の海に暮らすシャチたちが、それぞれに個性的だからだ。違う海にすむシャチたちは、ときには姿形さえ違ってさえ見える。それ以上に、各地の海に暮らすシャチたちは、それぞれの獲物を狩る方法や、暮らす海の環境の使いかたを独創的に編み出し、それを親から子へ、群れのなかまへと受け継いできた。まさに、それぞれの文化を持った存在といっていい。

1988年に最初のシャチについての著書『オルカ—海の王シャチと風の物語』、1990年には『オルカアゲイン』(講談社出版文化賞写真賞)を発表して以来、今年『シャチ生態ビジュアル百科』を出版するまで、何年かに1冊はシャチについての著書や写真集を発表してきたから、この動物は写真家としてのぼくの生活を支えるとともに、ぼくの仕事のありかたさえ規定してきた被写体である。
今回の写真展「ORCA 1982-2015」は、きわめて初期の作品からごく最近の作品までを一堂に集めたもので、ぼくの三十数年にわたる写真家としての仕事が集約されたものだ。

2015年 夏
水口博也

水口みなくち 博也ひろや プロフィール

1953年
大阪生まれ。京都大学理学部動物学科卒業後、出版社にて書籍の編集に従事しながら、海洋生物の撮影をつづける。
1984年
フリーランスとして独立。以来、世界中の海をフィールドに、動物や自然を取材して数々の著書・写真集を発表。とりわけ鯨類の生態写真は世界的に評価されている。
1991年
写真集『オルカアゲイン』で講談社出版文化賞写真賞受賞。
2000年
写真絵本『マッコウの歌—しろいおおきなともだち』で第五回日本絵本大賞受賞。
2014年
ソニーイメージングギャラリーで、写真展「The Greats of the Earth~大いなるものへの讃歌~」開催。
2015年
世界のシャチの生態をまとめた『シャチ生態ビジュアル百科』(編著)を出版。

現在は1年の半分を海外での撮影と取材に費やし、残りの日本での半分を、執筆、編集、講演等を行う。近年は地球環境全体を視野に入れ、熱帯雨林や南極、北極での取材も多い。

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