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ソニーイメージングギャラリー 銀座

田中昭二 作品展 水の影 あるいは、沈む光。

田中昭二氏による作品展「水の影 あるいは、沈む光。」は、湖、沼、河川で偶然出遭った“水のある静かな光景”を独自の観点で撮影した作品を展示している。しかし、それらの作品は、美しい自然風景を捉えた一般的な風景写真とは一線を画する作風だ。直接的に視覚で伝えるのではなく、そこに立ち止まって作品を眺める自身の感性で、詩の行間を読み取っていく中でふと何かに気付かされるような作品なのである。それらは重厚でありながらもゆったりとした静謐さを湛えたもので、見る人の心を穏やかにしてくれる。

田中氏は2015年7月、廃墟と化した建物や巨石をモチーフに植物、水、光といった要素をデジタル的に丹念に合成し1枚の作品に仕上げた「Lost -過去の中の未来-」を当ギャラリーで開催している。
この作品展と前回の作品展で共通して見る者に伝えたいことは、情報過多の世の中から“逃げよう、切断しよう”という田中氏のメッセージである。

インターネットやそれを利用するツールの急速な普及などもあり、今の世の中は色々な意味で“繋がる”ことを強く要求される社会である。この接続過剰の世の中ゆえ、人々は安寧を乱され酸素欠乏の水中を喘ぎながら泳ぐ魚同然に疲弊しているように見える。
巷に溢れているもの……つまり我々の眼前に広がる光景。それら視覚、聴覚、嗅覚、皮膚で捉えるものすべてが、過剰な原色が織り交ざった鮮やかなもので、それらは一様に高コントラストで突き刺さるようなシャープ感を持ったものばかりだ。人が自然の一部であることを再認識しなければ安寧とした日々を過ごすことはできない。

この作品展の被写体は、予め目的を持って撮影されたものではない。過去という潜在的なものに押し出されるように、そして流されるように向かった場所で出遭った“心地よい水のある静かな光景”をやさしく“沈む”ようなやわらかな自然光でフラットに撮影したものだ。田中氏は、その撮影について「(自分の思いや感情に)身を任せて撮ったのです」と語った。撮影した画像は丹念にデジタル処理を施し、作品ごとに表現意図に沿って画像全体を“緑”、“青”、“紫”に調色し、昇華させた。
それは、前述したように、現在の主流となっている映像表現の対極にあるものだ。日常的に感じる、それらの“強く主張してくるだけの光景”は格差を生むだけの二元論的な風潮の現れとも言えるだろう。
しかし、異議申し立てするにしても、声高でヒステリックなメッセージでは心に響かない。伝えたい些細なもの、いまだから感じてもらいたいものをゆっくりと静かに、やさしく糸を紡ぐように織りなし、見る人を包みこむことで気付いてもらうことのほうがより効果的に伝わり心の癒やしにもなるのである。

モノクロームの落ち着いた世界を、プリントとモニターの動画映像で鑑賞しながら、つかの間“接続と切断のひととき”をすごしてみてはいかがだろうか。

田中たなか 昭二しょうじ プロフィール

1957年東京生まれ。日大芸術学部写真学科卒業後出版社に入社。雑誌・書籍の編集、ビデオの制作、監督に携わる。退社後、映画監督デビューを果たし、一般劇場公開作に「スパンキング・ラヴ」「イグナシオ」「エロス+廃墟」がある。また廃墟を基調にした映像による風景論を展開、自ら撮影編集した「廃墟幻影」「戦争遺跡」「アンダーグラウンド」「石棺と再生/チェルノブイリ」「忘却と記憶/アウシュヴィッツ」などの異色のDVD作品を発表している。著書としては「廃墟、その光と影」「戦争廃墟行」がある。2015年には、プリントとモニター映像で、廃墟や巨石を基調に風景を幾重にも透過させ、どこにもない場所を浮かび上がらせた作品展「Lost -過去の中の未来-」を、ソニーイメージングギャラリー 銀座にて開催した。