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福島第一原子力発電所の事故で放射能物質が飛散し、福島の各所に『ホットスポット』と呼ばれる空間放射線量が非常に高い地点ができました。放射性物質を帯びた雲『プルーム』が天候の影響で発電所の北西方向(内陸部)に流れ、その雲が雨を降らせたことが原因です。その被害は広範囲に及び私の伊達市というホームタウン(福島第一原子力発電所から北西に約60kmの距離)も例外ではありませんでした。この作品は東日本大震災が起きてすぐの2011年4月からスタートし、主に実家のある伊達市を中心に福島各地で撮影したものです。
撮影を重ねるにつれ、私は目の前の光景をいくつかの層でとらえるようになりました。例えば山の景色の前に人物が立った場合、遠くの山を(遠景)、手前の人物を(近景)とし、その両者のあいだに位置する空間を(中景)とする構造です。つまり以前はみな一緒に存在していた目の前の光景が、放射能という異物が入り込んだ(中景)の存在によって、人物(近景)と山(遠景)が分断され、いうなればフォトショップのレイヤーのような層の重なりで空間を意識するようになったのです。さらにはカメラのレンズと人物のあいだの空間(近景の手前=接景)という領域もいつからか加わることになります。
写真をプリントする前に、まず現像したフイルムをスキャニングしてデータに落とし込みます。その過程でフイルムに付着した小さな塵やゴミも一緒に画像となって立ち現れます。本来ならばそうした二次的なものはスポッティング作業で消してしまいますが、福島の作業場を漂う塵として写真に残しておく事にしました。
作品のテーマは時間です。私の他のどの作品にも通じるもので、時間とはある面では物質や物事の朽ちや崩壊、あるいは消滅を意味します。震災以降、制作を通して福島の人々の時間に対する概念や意識の変化を顕著に感じました。それはおそらく放射性物質の人間に及ぼすリスクが、細胞や遺伝子といった長期的なスパンで影響してくるものだということ、また崩壊までにとてつもない長い期間を有する放射能の物理学的認識からくるものではないでしょうか。 それを踏まえ、特に本展は「放射能と人間」、つまり「無機物と有機物」という物質的な対比がコンセプトになります。
福島生まれ。アメリカで映像を学び、帰国後ポートレート、ランドスケープを中心に活動。2018年より東京から福島に拠点を移し、震災以降の福島の自然と環境をテーマに作品制作を行っている。 第13回Canon写真新世紀「荒木経惟賞」受賞、第42回Nikon「伊奈信男賞」受賞 。主な出版物「南米旅行」「パンダちゃん」(リトルモア)、「1/41」(情報センター出版局)、「The Circle」(自費出版)、「熊猫的時間」(ハガツサブックス) など多数。
菅野純(ぱんだ)さんギャラリートークゲスト 大森克己さん(写真家)
ホームタウン
福島第一原子力発電所の事故で放射能物質が飛散し、福島の各所に『ホットスポット』と呼ばれる空間放射線量が非常に高い地点ができました。放射性物質を帯びた雲『プルーム』が天候の影響で発電所の北西方向(内陸部)に流れ、その雲が雨を降らせたことが原因です。その被害は広範囲に及び私の伊達市というホームタウン(福島第一原子力発電所から北西に約60kmの距離)も例外ではありませんでした。この作品は東日本大震災が起きてすぐの2011年4月からスタートし、主に実家のある伊達市を中心に福島各地で撮影したものです。
四つのレイヤー
撮影を重ねるにつれ、私は目の前の光景をいくつかの層でとらえるようになりました。例えば山の景色の前に人物が立った場合、遠くの山を(遠景)、手前の人物を(近景)とし、その両者のあいだに位置する空間を(中景)とする構造です。つまり以前はみな一緒に存在していた目の前の光景が、放射能という異物が入り込んだ(中景)の存在によって、人物(近景)と山(遠景)が分断され、いうなればフォトショップのレイヤーのような層の重なりで空間を意識するようになったのです。さらにはカメラのレンズと人物のあいだの空間(近景の手前=接景)という領域もいつからか加わることになります。
写真の小さなゴミ
写真をプリントする前に、まず現像したフイルムをスキャニングしてデータに落とし込みます。その過程でフイルムに付着した小さな塵やゴミも一緒に画像となって立ち現れます。本来ならばそうした二次的なものはスポッティング作業で消してしまいますが、福島の作業場を漂う塵として写真に残しておく事にしました。
時間について
作品のテーマは時間です。私の他のどの作品にも通じるもので、時間とはある面では物質や物事の朽ちや崩壊、あるいは消滅を意味します。震災以降、制作を通して福島の人々の時間に対する概念や意識の変化を顕著に感じました。それはおそらく放射性物質の人間に及ぼすリスクが、細胞や遺伝子といった長期的なスパンで影響してくるものだということ、また崩壊までにとてつもない長い期間を有する放射能の物理学的認識からくるものではないでしょうか。
それを踏まえ、特に本展は「放射能と人間」、つまり「無機物と有機物」という物質的な対比がコンセプトになります。