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English ソニーイメージングギャラリー 銀座

髙橋 和男 作品展 フロリダ、湿地帯の鳥たち

新聞社勤務を経て渡米した私は、スポーツの取材のカメラマンをしていた。ことさら動物好きではなかった私が野生動物の素晴らしさに気づいたのは、イエローストーン国立公園を訪ねたのがきっかけだった。それまでゴルフや野球などスポーツ会場の人混みに揉まれての取材で心も体もくたくたに疲れ切っていた。そんな中で出会ったのがイエローストーンの大自然の中で生きる動物達だった。そして絵葉書でしか見たことがなかった美しい自然とその上を流れる天の川に「こんなアメリカがあったのか!」と衝撃を受けた。そしてその大自然との出会いはそれまで漫然と考えていた全米に広がる国立公園への旅が現実となり、スポーツカメラマンからネイチャーカメラマンへと自分の写真の被写体が変わった時だった。

初めの頃はクマやオオカミなど大きな動物達を追いかけていた私だったがある時、飛翔する鳥だけを撮影するカメラマンと出会った。大空を飛ぶ鳥たちの姿の何と美しく雄大であることか!彼の作品を見たことが私が鳥の撮影に打ち込むきっかけとなったのだ。

フロリダに住まいを移した私は、はじめエバーグレーズ国立公園だけしか知らなかった。そこはアクセスがしやすく、園内のキャンプ場も整備されていて、湿地帯に棲息している多くの種類の鳥たちが手の届く近さにいる。しかし当初からうまく鳥たちを撮影できたわけではない。鳥の名前や生態の知識が乏しかったからだ。公園にはたくさんのバードウォッチャーや鳥を狙うカメラマンの姿があった。彼らと仲良くなるのはとても簡単だ。彼らはほとんどがアマチュアカメラマンだったが、多くのカメラマンの心情として自分の写真を褒められることほど嬉しいことはない。私は時々公園で会うカメラマンを見つけるとすぐに近づき撮ったばかりの写真をモニター見せてもらった。そして褒めちぎった。すると気をよくした彼らは友達になりいろんな情報を教えてくれた。一番助かったのはエバグレーズ以外にフロリダの多くの湿地帯ではそこに集まる鳥達の種類も違っていることだった。バードウォッチャー達もとても親切だった。顔見知りになるとすぐに近づいてきて「今あそこにこんな鳥が巣を作っているよ」と教えてくれた。もう一つ公園には多くのパークレンジャーが働いているが、彼らはここに生息する動物や鳥たちに精通していてビジターセンターで地図を見ながらどこにどんな鳥がいるかと丁寧に教えてくれる。こんな人たちが私の鳥撮影の先生達だった。

鳥が好きな方はぜひこのフロリダの湿地帯を一度は訪れてほしいが、しかし夏場は勧めない。高温多湿で蚊の襲撃が待っているからだ。一番快適なのは乾季の11月から5月で特に繁殖期の春は湿地帯がいちばん華やぐ季節である。暑い夏が終わり自分たちのコロニーに帰ってきた鳥達はパートナーを探し愛の交換から子育て、そして巣立ちとその自然な営みを手の届きそうな距離で見ることができれば誰もが鳥好きになってしまうだろう。

私がフロリダで出会いそして夢中になって追いかけたこの愛らしく生き生きとした鳥たちの姿を鳥好きも、そうでない方にも心ゆくまで楽しんでいただきたいと思う。

カズ・タカハシ 髙橋和男

髙橋 和男(たかはし かずお)プロフィール

1948年鹿児島県長島生まれ。
陸上自衛隊4年間勤務、第301写真中隊(現写真映像中隊)で写真を習う。
日本で8年間新聞社勤務の後、1983年フリーランスで渡米、主に米国のスポーツ取材。
2005年4月、約7年かけて全米58カ所(現63ヶ所)の全国立公園と野生動物保護区などを訪問いろんな種類の動物を撮影した。
日米で多くの写真展開催
2022年12月、米国を引き上げ現在日本在住

<主な出版物>

  • アメリカの遺産(2005年、学研)
  • 北アメリカの野生動物(2011年、未知谷)
  • 国立公園と野生動物(2011,未知谷)
  • 写真馬鹿アメリカを撮る(2024年、幻冬舎ルネッサンス)