日本の自然風景をモチーフとする展示作品は、2019年以降発表を続けている「terra」シリーズの延長線上にあり、エネルギーが交差する地球生命の胎動へと眼差しを向けている。
元来、自然には名前はなく人間が期待するような意味もない。「海」や「山」などの言語で規定された領域の外で、同時偶発的に切れ目のないグラデーションとしてその運動は続いている。
海流や風に翻弄されながらシャッターを切り続けると、眼に見えるものと見えないものの境界が、写真の像としてあらわになる瞬間がある。その不規則な連続性は、地球から宇宙へと連なる惑星運動の事象として目の前で展開する。私にとって撮影は、コントロールできない自然をあるがままに受け入れ、写真に翻訳して記憶する行為にほかならない。
地中内部からの放出、揺らぐ水面と雨の衝突、水面下に広がる洞窟世界ーー
こちら側からは見えない動的な自然の運動を写真という装置を通じて眺める時、あなたの眼には何が映るだろう?
1972年生まれ。
上智大学経済学部経営学科・東京綜合写真専門学校写真芸術第二学科卒業。
1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。丸紅株式会社にて天然ガスのパイプライン輸送ビジネスに携わった後、東京綜合写真専門学校へ入学。鈴木清氏、小林のりお氏に学ぶ。
日本の自然風景をモチーフに色彩や造形の調和と明暗の差異による視覚効果を探求し、窓と鏡の視点を行き来する多面的な表現を展開している。
写真集・個展に「LAND ESCAPES」、「LAND ESCAPES FACE」、「terra」等がある。2020年写真展・写真集「terra」(写真集 赤々舎 2019・写真展 キヤノンギャラリーS 2019)にて日本写真協会賞新人賞受賞。日本大学芸術学部准教授。
<主な展示履歴>
個展
- 2024年
- “TERRA 2024- 身体と空間 -” キヤノンギャラリー 銀座・大阪
- 2023年
- “TERRA 2023” 同時代ギャラリー 京都
- 2021年
- “terra” 東川町文化ギャラリー 北海道
- 2021年
- “event horizon - 事象の地平線 -” ふげん社 東京
- 2021年
- “テラ(地球)の声” 日本橋高島屋新館 東京
- 2019年
- “TERRA 2019 [地球相貌]” MYD Gallery 東京
- 2019年
- “terra” キヤノンギャラリーS 東京
- 2016年
- “LISTEN” うしお画廊 東京
- 2015年
- “LAND × FACE” キヤノンギャラリー 銀座・大阪・札幌・仙台・名古屋・福岡
- 2014年
- “element - 時を観る 光の旅 -” キヤノンオープンギャラリー 東京
- 2013年
- “LAND ESCAPES - Japan -” キヤノンギャラリー 銀座・大阪・札幌・福岡
- 2010年
- “LAND ESCAPES” キヤノンギャラリー 銀座・大阪・札幌・福岡
グループ展
- 2024年
- “第45回 SSP展 2024-25” 富士フィルムフォトサロン(東京/大阪/札幌),
富山市科学博物館・明石市立天文科学館 他全10会場
- 2021年
- “写真家はどこから来てどこへ向かうのかー世界を歩き、地球を変換する写真”
(二人展 w/ 西野壮平)Gallery Forest 神奈川
- 2021年
- “日本写真協会賞 受賞作品展” 富士フィルムフォトサロン 東京
- 2020年
- “TOKYO CURIOSITY 東京好奇心2020” Bunkamura ザ・ミュージアム 東京
- 2020年
- “光の中へ” キヤノンギャラリー 東京 大阪
- 2020年
- “東京2020 コロナの春” ふげん社 東京
- 2015年
- “The Photographers 2” キヤノンギャラリー 東京
Video Installation
- 2013年
- “circulation" 逗子メディアアーツ 神奈川、おおすみ芸術祭 鹿児島
- 2012年
- “water silence" 世田谷ものづくり学校 東京、逗子メディアーツ 神奈川、おおすみ芸術祭 鹿児島、佐賀城コミニカ展 佐賀、竹田アートカルチャー 大分、アートセンター 宮崎
第7回目となる日本大学芸術学部写真学科専任教員による写真展「SKY VII」を開催させていただくことになりました。
私ども教員は、先達の師より厳しく基礎技術を学び、それを踏まえた上で自己表現を展開すべく写真表現を研究し、実践しております。また多くの学生達と向き合い、語り合う中で、幅広い写真の世界に日々接し、試行錯誤をとおし多様な写真表現にトライしています。
写真学科の制作系教員3名の作品を紹介いたします。教育を中心としながらの制作ですが、作品発表を念頭におき写真制作を継続しております。
GOTO AKIは、今年度から写真学科の専任教員になりました。2020年には日本写真協会新人賞を受賞している写真家です。近年は日本各地の自然に相対し、色彩や造形の調和と明暗の差異による視覚効果を探求した「terra」シリーズを継続しており、新たな展開に至っています。人間の思考を超えた地球本来の姿を感知し、地表から海中までを同等の視線で捉え、写真で表現しています。地球(terra)全体をひとつの生き物、流動体と感じさせる作品です。
田中 里実は、4年ぶり4回目の登場です。古典技法や銀塩写真を研究し、制作しています。加えて写真史の研究も行っています。今回は銀塩すなわちフィルムを使用し、4x5inの大型カメラで撮影しております。日本各地の巨木や美しい1本の木と向き合うシリーズで3年前から撮影を開始し継続中であり、今回初出の未発表作品です。平野の中に立ち上がる1本の木、神が宿っていると言われる神木、大自然の中から都会まで様々な場所で生きる木々に自然に回帰する指標としての姿を見ています。
鈴木 麻弓は、2年ぶり2回目の登場です。京都グラフィー2022で現代日本女性写真家の1人に選ばれ、今年はアルル写真フェスティバルで2つの写真展を開催しました。今回の展示は3.11以降、ライフワークにしている故郷女川を被写体とした作品であり、新作を含む写真で構成しています。鈴木は故郷とは何か? 故郷と自己との関係、実家である写真館の歴史、祖父や父による写真と現在の町の変化を通して失われたものの重み、記憶に向き合い、過去と現在をつなぎ、女川の物語を未来へと語り継ぎます。
教育という主軸の仕事をこなしながら地道に創作活動を継続している3人の最終仕上げにまでこだわったオリジナルプリントです。展示方法までを含めて、3人の表現世界をご高覧ください。彼らの表現の広さと深さを感じて頂ければ幸いでございます。
日本大学芸術学部写真学科
主任・教授 西垣仁美