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English ソニーイメージングギャラリー 銀座

第14回公募セレクション作品 金子 直道/シノブ・キイ/升谷 絵里香 映像作品展 この揺りかごを -If I could-

近年は毎年のように「今年の夏は今までにない暑さですね」という言葉を交わすようになりました。そして大雨の激しさが極端になる等、様々な形で私たちの生活にも変わりゆく気候の影響を感じるようになっています。

本来は南の海に棲む魚が関東の海でも見られるようになったり、さらに南の海ではサンゴの白化現象が広がったりする等、生き物たちの暮らしにも気候の変化による影響が現れています。

これらは日本だけで見られるのではなく、世界のあちこちの海や山や森でたくさんの生き物が環境の変化によって種の危機に直面している、棲むところを変えなければならなくなっている、と言われています。

また、日本では札幌のような大都市にもヒグマが現れたと報じられ、様々な地方でイノシシやシカの姿が場所によっては人里でしばしば見られるようになる等、人と生き物との関係性にもお互いの生活が影響を及ぼし合うようなニュースも目にします。

大規模な森林伐採や宅地開発、工場や高速道路の建設等、人が生き物の暮らす場所を壊してしまう事が今も世界のどこかで絶えず行われています。

人や生き物はこれからもこの地球で生き続けていくことができるのでしょうか。
わたしたち人は生き物と互いに影響を及ぼし合い過ぎないようなやり方を見つけ生み出し、この地球で共存し続けていくことができるのでしょうか。

身近なところで起きていること。
そして、今見えていないことを想像すること。
もしわたしが何かできるなら。

金子 直道(かねこ なおみち)プロフィール

1985年、茨城県土浦市生まれ。言語聴覚士・公認心理士として病院で勤務するかたわらで人・自然との対話をテーマに写真・映像による作品を制作している。

作品歴

2024年 5月
写真の声を聴く「Contradiction」(WEB展示)
2024年 2月
寄居町シティプロモーション動画コンテスト優秀賞「YORII SUMMER」
2021年 7月
たまねぎをむく展「宇宙の子」(gallery LE DECO)
2019年11月
フォトモンタージュ作品「羽化」(72Gallery)
2019年 7月
写真集「日々のあわ、重なる軌跡」

映像作品タイトル:
三月の雪

雪が降ると静けさを感じる。これは音の振動が雪の隙間に吸収されるからだ。私はこの静けさが好きだ。

昨今、雪が降らなくなったと感じる。2023年末から2024年初頭の冬は暖冬だった。短期的な大雪こそあれ、北日本側の降雪量は平年よりも少なく、桜の開花は全国的に遅れた。季節のあり様が変化していることを身近に感じるようになった。

気象庁のシナリオでは、2076年から2095年には日本の大半の地域で、年最深積雪と降雪量は大きく減少すると考えられている。その減少率は20世紀末と比べて7割にも及ぶ。

本作品では不可逆である自然の営みを逆再生にすることで、この美しい現象を未来に残したいという願いを込めた。

映像:4分11秒
音楽:MUUA「sphere」
制作:2024年3月

風から生まれた

カメラを持って外に出たとき、私が心惹かれたものは海原に揺れる月の光や、風にそよぐ草花、川のせせらぎの音や、木漏れ日で生じる陰影だった。それらは天候や生き物との関係によって姿形や音を変え、常に賑やかで、ゆるやかで、自由だった。絶妙なバランスの世界。お互いがお互いを見て、聞いて、呼応している。変化し循環する様を静かに眺めているうちに、私はその中に溶けていくような感覚があった。

私はこれを作品にしたいと思った。

量子力学ではこの感覚を「ゆらぎ」と呼ぶそうだ。光のゆらめきも、風の強弱も、私たちの鼓動や呼吸も「ゆらぎ」の性質を持っている。こうしたゆらぎの性質に脳が呼応したとき、私たちは心地よさを感じるのだという。
そして、私たちが住む宇宙も、その起源にはそよ風のような「ゆらぎ」があり、そこから宇宙が生まれたと考えられている。

同じ性質を共有する私たちは、風から生まれた宇宙の子どもだと言えるかもしれない。

映像:5分51秒
音楽:MUUA「shape」
制作:2025年

シノブ・キイ プロフィール

北海道出身。学生時代にフォトジャーナリズムと出会い、1996年−98年ロシア民族友好大学文学部ジャーナリズム学科留学。放送局や酪農業界などを経て、北海道を拠点にフリーランスフォトライターに。2014年より水中撮影を始める。北方圏の自然環境や風土、戦争遺産に関心がある。猫舌。

映像作品タイトル:
The First 54 days (of pigeon’s life)

初夏のある日、突如ベランダに鳩の卵が一つ産み落とされた。翌日にはもう一つ。一般的に鳩は「鳥の巣」を作らないが、このつがいは子供部屋たる巣の土台にこだわり、枝を集め自らの羽を飾った。出産の苦しさや子育てにクタクタになり思わず寝落ちし、日々羽色がやつれていく夫婦の姿と、好奇心豊かに艶やかに育っていく子供達。約10年とも言われる鳩の一生のうち、誕生から巣立ちまでの”鳩生”最初の54日間の記録。

始まりで終わりの場所

日本で最も身近な鮭「白鮭」の遡上から旅立ちまでの数ヶ月を追った。白鮭は都会から人里離れた大自然まで、産卵に適した川であれば遡上し子孫を繋ぐ力強い魚だ。川で誕生した鮭は数センチの小さな体で北方の海へ旅立つ。約4年後、成熟した鮭は産卵のために産 まれた川に帰るが、着く頃には卵や精巣(白子)を収めるために胃が消える。体に蓄えたエネルギーと精神のみで遡上し、全身で石を退けて産卵し、やがて川底に消える。開発によって帰るべき川は減少し、気候変動や人間の消費、密漁を乗り越えて大きく成長した鮭だけが、生まれた川と一つになれるのだ。

升谷 絵里香(ますや えりか)プロフィール

千葉県生まれ。2016年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了。
2007年より、オブジェクトを用いたパフォーマンスを開始し、文化的背景の異なる国や地域での滞在制作を通じて、ビデオインスタレーションとして作品の制作および発表を行っている。
初期の代表的なプロジェクトとして、クリスマスツリーを洗車機で洗う《X洗車 "We ‘Wash’ You a Merry Christmas"》や、ラジコンボートを使用した《島を動かす / Move the Island》が挙げられる。これらの作品では、場所性に対するアプローチが特徴的である。
新型コロナウイルスの流行以降、マルチスピーシーズ(多種共存)の考え方に関心を深め、そのテーマに基づいた表現活動を展開している。

映像作品タイトル:
アシミレイト / ASSIMILATET

制作年:2020年

自然との一体化を試みたパフォーマンス作品。
アイスランドのミールダルスヨークトル氷河では、小石が転がる音や、崩れ落ちた氷が水面に触れる瞬間が静かに響き渡る。人の気配が遠のいたこの大自然の中、時に圧倒的な恐怖を覚えながらも、作者は自然と同化することで安堵を見いだそうと試みる。

キラウシカムイ / KIRAUSHIKAMUY

制作年:2021年

日本の北部に位置する北海道は、豊かな自然とともに、複雑な文化や歴史を持つ地である。
撮影の舞台となった北東部の野付半島には、古くからある伝説が語り継がれている。
その伝説を元に、エゾシカが歴史の流れと交錯しながら、野生動物と人間の共存をメッセンジャーが案内していく。

EXCEEDING ALGORITHMIC DESCRIPTION: THE PRACTICE OF THE WILD / アルゴリズムによる記述を超える:野性の実践

制作年:2023年

多くの文化や歴史の中で、シカはメッセンジャーとしての役割を担ってきた。そのシカが私たちに届けようとするメッセージとは何だろうか。
その答えを探るために、まず私たちはシカと波長を合わせる試みを始めた。波長を共鳴させることで、シカの視点から見える景色が徐々に浮かび上がる。。