街を縫うように整備されたその川は、私がよく目にする場所よりも、ずっと遠くから湧き出ており、そして海まで流れていく。
その状況を大きなスケールで捉えてみると、なんでもない川が、とてつもなく壮大なもののように見えてくる。
単なる近隣の川というスケールから拡張し、偶然性を多分に含ませるため、川に印画紙を沈め、瞬間的に光を当てる。
この行為によって川の流れと波長としての光という、二つの波が偶然にもぶつかり合う。

人気のない場所に立つと確かに生きていると感じる。
地面の冷たさや風の音に触れる感覚、静けさや安らぎの中に、私たち人間が入り込むことで感じられる違和感がある。
呼吸が自分と世界をつなぐ行為でありながら、そのつながりが脆いと感じる瞬間もある。そうした緊張感や不確かな中で、それでも「今、ここにいる」ということを、確かめたかった。

人を撮ることは他者を知ると言う純粋な欲求と自身を探るための問いかけだ。
生まれ育った新宿で見ず知らずの人に声をかけ撮影した。惹かれていたのは、彼らの中に存在する複雑さや深み、人生そのものだと気づいた。
誰かと向き合い、その時の緊張感や感情を写真に残すことは単に作品を生むだけではなく、人との間に特別なつながりを生む行為でもある。
カメラを通して交わした視線、短い言葉、すべてが大切な記憶として刻まれている。

本作では、日常生活を支えるコンクリートが、我々人間の精神や社会に与える影響を模索するものとなっている。
作品全体を6つの章に分け、多面的にその物質性と精神的側面を可視化し、記憶や価値観、感情や記憶といった要素を通じて、単なる物質ではなく、精神や社会と共鳴する存在としてのコンクリートを再考する。

友人が亡くなった。
永の別れ（ながのわかれ）を初めて肌で感じた。会いたい人にいつでも会えるとは限らない、存在していることは奇跡とも言える。いまここに生きている証拠、当たり前はないということを形として残した。
蝶は亡くなった人の魂や復活のシンボルであり、死と再生のメタファーとされている。
「生まれ変わってもまたママの子どもとして生まれてきてね」という友人の母親の言葉がいつか蝶の形となって叶うと私は信じている。

家族のアルバムを見返していると、幼少期の記憶がほとんど残っておらず、写真では記憶を完全に残せないのだと感じました。しかし、最も近い存在である姉との思い出を振り返る中で、記憶が薄れていく中でも、今と変わらない部分が残っていることに気づきました。
写真を通してその時の感情や瞬間を再び感じることで、自分の記憶に繋がっていることを実感しました。姉のイメージを表現し、過去と現在を繋げる作品を制作しました。

イメージはどこからきたのか。
6枚の絵には、「レモン」が描かれています。数百キロの距離と数十年の時を隔てた解釈が混在し、私の目の前に現れた果実は、画家たちのスクリーンを通して再構築されました。これらの匿名の画家たちは、異なる文脈で与えられた画像を解釈し、「レモン」という存在を400*300mmのキャンバスに創り上げました。
それは一体、本当にレモンなのか、それともライムなのか、未熟な柿なのか、それとも単なるイメージとして流通していくのでしょうか？

無目的な移動の中で、かつて大事件が起こった場所を通りがかった。その鬱蒼とした景色は前情報と結びつき、異様な雰囲気を帯び、どこか別世界に引き込まれる感覚を覚えた。
この体験を引きずりながら、情報が不足している瞬間や時代性・場所性が曖昧な風景を撮影し、写り込む「モノ」に生じる「コト」を際立たせた。
日常の光景も写真に撮影することで異化され、23枚の無機質なイメージが共鳴し、得体の知れない物語が立ち上がる。

私は幼少期の頃から憧れがあったお菓子の家をテーマに制作を始めた。
好きな物をたくさん食べたいという思いで行なった多量の食べ物に囲まれている、食べている作品から異常と過剰という言葉が思い浮かびそれをタイトルにした。

バターをフライパンで温め広げた時、フライパンが宇宙自体のように感じ、ここに一つの宇宙が生まれたように思えました。それと同時に私たちの宇宙も別の視点から見ればバターの泡のように小さく、この銀河はフライパンの上かも知れないと思いました。ものを見る際の視点は経験や想像によって決定され、その視点は認識のずれへと変化します。では現実はどこに存在するのでしょうか。
私たちは想像の世界に閉じ込められているのです。

常に気が散りやすく短い刺激を求めて寄り道をする。
写真を通してこの行動や思考の基盤となる枠組みのあり方を掘り起こし、単調な日々に新たな意味を見出すことを試みた。しかし、そこには寄り道をする瞬間にも、実は自発的に自己の行動をコントロールしているという矛盾に気づく。
それらを手がかりに日常の生活や決断に、どのような影響を与えているのか考える。

普段は見過ごしがちな玄関先の空間に佇むオーナメントたちの多様な姿や表情を写真に記録しました。
静かに存在する彼らは、どこか小さな物語を秘めているように感じます。この作品を通して、何気ない日常風景に新たな視点を持つきっかけになれば幸いです。

来処（らいしょ）はかつて「満洲」と呼ばれ、シベリアの寒風に黙し佇んでいた。だが、20世紀の激流はこの地を歴史の渦へと誘った。
時の奔流は、様々な人々と旗をここへと運んだ。離れるほどに募る故郷の痛みと脈動。消えゆく命の音は、薪が弾けるように、過去と現在を揺らし響く。私は今、その微かな声に耳を澄ませる。

普段出会うことのできない美しさと不可解な状態に、非現実感を覚え、それを追い求めているうちに、水を撮っていた。
写真になった水たちは、肉眼では捉えられない一瞬の表情や質感により、日常から離れた存在となり現れる。