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English ソニーイメージングギャラリー 銀座

© Shinichiro Nagasawa
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第49回木村伊兵衛写真賞 受賞作 長沢 慎一郎 作品展
Mary Had a Little Lamb
主催:朝日新聞社、朝日新聞出版

【選考委員のことばを全文掲載!】第49回木村伊兵衛写真賞は長沢慎一郎氏が受賞(AERA DIGITAL)

Mary Had a Little Lamb(メリーさんの羊)

ロシアによる核の脅威を受け、ヨーロッパでは「核の傘」の拡大が議論され、核軍縮に逆行する動きが出始めている。核による悲劇が再び繰り返されるのではないかという不安がよぎる。

第二次世界大戦後、アメリカは「抑止力」という名のもとに世界各地へ核兵器を配備した。その一つが、日本の小笠原諸島・父島にあった。戦後23年間に及ぶアメリカ海軍による占領の下、この島には秘密裏に核弾頭が配備され、その核貯蔵施設には「Mary Had a Little Lamb」という名がつけられていた。広島・長崎に投下された原子爆弾が「Little Boy(リトルボーイ)」「Fat Man(ファットマン)」と呼ばれていたのと同様に、気まぐれで無邪気な名前の裏には恐ろしさが潜んでいる。

私は2008年から、無人島だった父島に最初に入植した欧米系島民の子孫たちを撮り続け、2021年に彼らのアイデンティティーをまとめた『The Bonin Islanders』を発表した。彼らは占領時代に父島へ戻ることを許された数少ない人々である。「空白の23年」ともいわれるこの時代の出来事を知るには、彼らの記憶を頼るしかない。父島の核兵器配備についても、当時島にいた欧米系島民の証言をもとにアメリカの研究者ロバート・ノリスらが明らかにした。私自身も彼らとの交流を通じて、核の配備や貯蔵施設の存在を知ることとなった。

戦時中、要塞島となった父島には、地下壕や大砲跡など多くの戦跡が残存している。しかし、それらは今、時間と共に朽ちつつある。約半世紀前にアメリカ軍が去り、かつて核弾頭が貯蔵されていた施設も今は空となり、そこには、ただ「虚」だけが残されていた。私はその場所に宿る記憶に光を当て、問いを投げかける。今なお続く核の脅威と向き合うための視座として。

長沢 慎一郎

長沢 慎一郎(ながさわ しんいちろう)プロフィール

写真家

1977年
東京生まれ
2001年
藤井保氏に師事
2006年
独立
2008年
小笠原父島での撮影をはじめる
2021年5月
写真集「The Bonin Islanders」赤々舎より刊行
2024年10月
写真集「Mary Had a Little Lamb」赤々舎より刊行

『The Bonin Islanders』 Photo Exhibition

2021年5月
ニコンサロン
2022年10月
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO
Hotel Pat Inn 父島
2022年12月
東京都写真美術館『PRIX PICTET Japan Award』