ソニーイメージングギャラリー 展覧会経験者に訊く
作品展から繋がる、
広がる世界
Vol.1 原田佳実さん
ソニーイメージングギャラリーでの展覧会経験者である写真家たちが、自分は何を目指し、いつからどんな準備を行って展覧会に至ったか、当時の想いや歩みを紹介する。
第1回は「Future部門(旧ユース部門)」 の作品展公募に応募し、2020年1月に作品展「りすだもん」を開催した原田佳実さん。メーカーが運営する大きなギャラリーでの展示が初めてだったという原田さんに、応募に至るまでの経緯から作品展を通して何を得たのかお話をうかがった。
2016年に野生のエゾモモンガと出会って以来、ニホンリス、エゾリス、エゾシマリス、エゾモモンガなど、日本に住む野生のリス科の動物を追いかけ撮影している原田佳実さん。毎月、北海道を中心に撮影に出かけ、リスの魅力や日常のシーンを伝えようと、リスの一生に寄り添いながら撮影を行っている。
原田「彼らが生きている時間は人間に比べてすごく短い。いつもその時にしか撮れないものがあるので、1回1回を大事に、必ずいい出会いがあると信じて、撮影に行っています」
写真作品48点で構成された作品展『りすだもん』では、表情が愛くるしいリス、シルエットが美しいリス、過酷な自然環境の中にいるリスなど、作者のリス愛が伝わるさまざまな写真がサイズを変えてリズムよく展示された。
原田さんはそれまでレンタルギャラリーでのグループ展、個展の経験はあったものの、いわゆるメーカーギャラリーで展示をしたのは、作品展公募に通過したこの時が初めて。そもそも作品展公募に応募したきっかけは何だったのだろう。
原田「ソニーイメージングギャラリーの展示を見に行った際、たまたまその時展示されていた方が、作品展公募の審査に合格した方だったんです。ソニーイメージングギャラリーはプロの著名な写真家ばかりが展示しているイメージだったのですが、その方も自分と同じアマチュアで。アマチュアでも作品展公募を通れば展示ができることを初めて知りました」
もともとソニーイメージングギャラリーの展示空間を気に入っていたこともあり、この広い空間で多くの人に作品を見てもらいたいという思いから、すぐに応募を決めたという。
原田「一次審査は作品を20点以上、Webにアップロードし、エントリーシートに作品ステートメントや来場者に伝えたいことなどを記入するだけ。他の公募では一次審査の時点でもしっかりしたポートフォリオを提出するイメージが強かったので、ソニーの作品展公募は想像よりもはるかに応募しやすかったです。ポートフォリオをつくるのはプリントの色合わせなどもあり、お金も時間もかかって大変なので」
二次審査は面接。作品展のプランを話したり、自己PRできる場が設けられている。
原田「ほとんど内容を覚えていません、緊張しすぎて(笑)。でも、私がどうしたいのか、何を伝えたいのか、ということはお話できたと思います。私は何か受賞歴があるわけではないので、直接お会いして作品についてお話しできる機会があったのはありがたかったですね」
展示構成をグレードアップして近づける、理想の展覧会
審査に合格してから作品展開催までの準備期間は人それぞれだが、原田さんの場合は約6ヶ月。その期間、どのように展示構成を考え、準備を行ったのだろうか。
原田「独りよがりにならないように、見てもらう方のことを考えて、なるべくいろんな方の意見を聞きながら、展示する作品を決めていきました。リスに興味がない人や、幅広い年代の方にも楽しんで見てもらいたかったので」
「楽しませたい!」というエンターテインメント精神に溢れる原田さん。展示作品にカッティングシートで「吹き出し」を付けたり、目線の位置に並べられた作品から、1枚だけ離れて、少し見上げる高さに展示されている作品があったり……。
原田「この作品は、ちょうどリスの巣穴と同じくらいの高さに展示してみたんです。もしかすると普通に見ていたら気づかないかもしれないですが、通り過ぎて振り返った時に、気づいた人は、嬉しいかなと思って……」
「吹き出し」も、「黒魔術、はじめました」「ボクシングの基本はジャブ」など、リスたちのしぐさや表情にぴったりのユニークなコメントが添えられている。
原田「この吹き出しはこだわったポイントです(笑)。ソニーイメージングギャラリーは海外のお客様も多くいらっしゃるので、バイリンガルでの表記が必須でした。吹き出しにも英訳を付けたり、細かな希望を聞いてもらいながら作りました。他にもギャラリーの方とは本当にたくさんのやりとりをさせてもらって。相談しやすかったですし、やりたいことの実現に向けてかなり手厚くサポートしていただきました」
さらに「Future部門」に応募して合格すると、展示をグレードアップするための費用を負担してもらえるサポートもある(上限40万円 / 詳細条件有※)。これは、作品の加工や額装、用紙の変更、プリントサイズアップなど、理想の展示に近づけるために、プリントや写真加工のプロフェッショナルに発注するための費用のサポートを受けられるというもの。新人写真家の活動を支援し、キャリア形成のきっかけにしてほしいというのが目的だ。
- Future部門の条件等は変更になる可能性があります。募集要項でご確認ください。
原田「いつもは手が出ない超光沢のプリント用紙を使うことができました。普段は自分でラボに行きプリントするのですが、この時は念願のプロラボにお願いしました。点数は48点もありますし、一番大きいサイズの作品は長辺1200ミリと大型だったため、これはとても助かりましたね。展示ではサポートのおかげでやりたかったことが実現できたので、自分自身でポストカードブックやシールなどの楽しいグッズをつくることもできました」
審査に合格したことが、大きな自信につながった
審査に合格してからの準備期間は、「あの広い空間を埋められるのだろうか」というプレッシャーや心配もあったという原田さん。
原田「当日を迎えるまでは、本当にこれでいいのかなという不安はありました。でもお客さんに来ていただいて、楽しんでもらっている姿を見たら、だんだんそれはほぐれていきましたし、初日を過ぎれば自信を持って見てもらえました。達成感がありましたね」
銀座四丁目交差点、三越や和光と向かい合う銀座プレイスの6階という場所柄もあり、それまで展示したことのあるギャラリーとはまた違った層の方々が足を運んでくれた。外国人観光客、銀座のギャラリー巡りをしている人、会社帰りに「癒される」と何度も来てくれた人、普段知り合うことのない、雑誌の編集者等々……。
原田「トークショーも2回開催させていただいたのですが、最初はあまり人は来てくれないかもと思っていたんです。でも実際にやってみたら、ギャラリーを埋めるほどのお客さんが来てくださって。知り合いではない方たちもたくさんいらして、どこで知ってくれたのだろうかと驚きました」
作品展の開催は、写真家として活動するうえでの大きなターニングポイントになった。
原田「私は写真歴も長くなく、今後どうしていきたいか、ということもそれまであいまいでした。でもソニーイメージングギャラリーで作品展を開催する中で、周りの人たちからも本気で取り組んでいると見てくださるようになり、作家として活動したいと本格的に考えるようになりましたね」
ギャラリーからのサポートを受けて納得のいく作品展を作り上げ、会期中に様々な来場者と対話することで大きな自信へとつながったと原田さんは語る。
原田「作品展公募の中で選んでもらったからこそ、自信を持って展示することができました。展覧会を終えてすぐにコロナ禍となり、思うように動けなかったのですが、その期間があったからこそ、リスへの想いが膨らみ続け、また何をどう伝えていきたいのかと熟考することができました。今はリスと並行して新たなテーマでも撮影をしています」
自分がそうだったように、「自信がない方こそ、応募してもらいたい」と語る原田さんは、いまも新しい作品の制作にまい進している。作品展で得た自信が、次のステップに向かう大きな原動力となったようだ。
インタビュアー:安藤菜穂子
/ 制作:合同会社PCT
原田佳実(はらだ・よしみ)
1985年東京都生まれ、東京都在住。北里大学獣医畜産学部動物資源科学科・生殖学専攻卒業。大学卒業後は、細胞が好きなことから胚培養士として3年間医療に従事。夢中になれることを探して人生を迷走していた2014年、美しい水中写真の写真集と出会い、感激。同年秋頃から写真をはじめる。その後、2016年3月に野生のエゾモモンガと運命的な出逢いを果たす。それを機に、元来の動物好きに火がつき、日本に棲むリス科の動物たちの撮影をはじめる。
- 《個展》
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- 2022年6月 「りすだもん」リバイバル展 シェアスペースlulumalu
- 2020年1月「りすだもん」ソニーイメージングギャラリー銀座
- 2018年11月「りすぱら」 ギャラリー・ナダール
- 《グループ展》
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- 2021年9月「わたしのともだち~写真家と愛しい存在の物語~」ソニーイメージングギャラリー銀座
- 2018年2月「めざせ個展」 ギャラリー・ナダール(投票数1位)
- 2017年12月三村漢ゼミ修了展「めくるめくる写真展」 ギャラリー・ルデコ
他多数