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ソニーイメージングギャラリー 銀座

公募のご案内

ソニーイメージングギャラリー 展覧会経験者に訊く
作品展から繋がる、
広がる世界

Vol.3 舞山秀一さん

ソニーイメージングギャラリーでの展覧会経験者である写真家たちが、展覧会にどんな想いを込め、そして何が⾃分の糧となったか、当時を振り返っていただいた。

第3回は、20代の頃からさまざまな雑誌の表紙やCDジャケット、広告など撮影の第一線で活躍しながら、数年に一度の作品発表をコンスタントに行ってきた舞山秀一さん。今年で独立36周年を迎える舞山さんは、いままでメーカー・コマーシャル・自主運営とギャラリーの垣根をこえて数多くの写真展を行ってきた。長いキャリアのそれぞれの時期に何を考え、そして次に向けてどのようなビジョンを描いて進んできたのか、話を聞いた。

初めての個展は28歳の時に開催した「SWAY」(東京デザイナーズ・スペース・1990年)。忙しく仕事をする若き日々の中、写真展を開催しようと思い至ったきっかけはなんだったのだろう。

舞山「個展『SWAY』を開催した理由のひとつは、モード界に挑戦したいという夢を持っていたことです。自分がデビューした1980年代は写真表現の大きな転換期で、雑誌『VOGUE ITALIA』全盛、ファッションやモードの力が大きかった時代。当時憧れたフォトグラファーたちは個性的な世界観を表現していたので、新人の自分が追いつくためにも、既視感のない写真をどうにか構築できないかと思って外国人モデルを被写体に作品撮りをしていました」

「SWAY」(1989年)より

舞山「もうひとつの理由は、写真展が効率的な営業活動になると考えたからです。独立から数年は写真を見てもらうため、ブックを手に出版社をまわり、人に会いに行くことに時間を使っていました。それが写真展なら、100人に声をかけて50人が来てくれたら、1週間の会期中に50人と会って評価を知ることができる。数年に一度は必ずやろうと決めて、これまで続けてきました」

旅が仕事にも創作活動にもつながった30代

旅が好きだった舞山さんは20代から30代にかけて、海外でのスナップや現地の人のポートレート撮影を続けた。忙しい日々が続く中で旅に出かける理由は、アイデアを枯渇させないための自分自身への鍛錬だという。

舞山「自分自身に肥やしをいれるために旅するんです。写真はもちろんハートも溜まるし、自分の目で見た海外の素敵な風景や、そこで出会った人たちのリアルな話を仕事関係者に伝えると、『じゃあ次はベニスで撮影しよう!』と仕事に繋がることが多々ありましたし、旅の作品から写真展を重ねていくこともできました」

30代の時にトルコで撮影したスナップ作品「ALIVE」は、バンドSOPHIA(ソフィア)のCDジャケットにもなり、タワーレコードで写真展も開催。多くの人に作品と名前を知ってもらうきっかけとなった。

SOPHIAのアルバム『ALIVE』ジャケット

自身でプリントしたバライタロール印画紙をギャラリーで展示した際、来場者に作品を買いたいと価格を尋ねられたことをきっかけに、作品販売も意識するようになったという。

舞山「それまでは写真展を開催しても、作品を売るつもりはありませんでした。ひたすら自分の幹を太くするということ、枝葉を拡げるということに注力していましたから。当然迷いもあるし、スランプもあるけれど、好きなことを好きなようにやり続けていくと、自分の本質的なものが見えてくる。実際に写真展で作品を販売し始めたのは、40代になってからですね」

時代ごとに訪れる変化への対応

仕事の依頼はポートレートが多いが、作品ではさまざまな被写体やテーマに取り組んでいる。特に他の作品と毛色が違うのは、動物園を写したシリーズ「ZOO」だろう。どのようにして始まった作品なのだろうか。

浜松市動物園(「ZOO」より)

舞山「2000年のはじめあたりから肖像権の問題がクローズアップされ始めたんですね。それまでは自分が感じた瞬間すぐに撮っていたのに、感じたままに撮ることができない時代になってしまった。それで動物園を撮り始めたんです。構図の世界に戻ろうと」

高校時代、デザイン科のある学校で平面の構成方法やデッサンなどを学んでいた舞山さんは、元来構図へのこだわりは人一倍だった。「ZOO」シリーズでは、あらかじめ自分がこうだと決めた構図の位置に動物が来てくれるまでひたすら待ち続ける撮影を重ねた。構図というある種の原点回帰だった。

舞山「開園から閉園までひたすら檻の前でじっと待ち続け、決めたポジションにその動物が来てくれたときバシャッと4×5判(シノゴ)カメラのシャッターを切る。そんな撮影でした。カメラとフィルムを持ち10~12年ほどかけて、全国約60ヵ所の動物園を回りました」

他にも制作と作品発表を続ける中で、変化が訪れることはあったのだろうか。

舞山「2018年に代官山のSISON GALLERyで展示した『A MOMENT』では、やっと画を描くように写真が撮れるようになったと感じました。風景でもなければポートレートでもない、あいまいに混ざった世界観。曇天の中、公園に並ぶ椅子や何気なく存在するいつもの橋など、日常にある違和感を撮ったものです。この展覧会では、それまで漠然と思っていたことがやっと形になったという実感がありました」

写真展「A MOMENT」(SISON GALLERy・2018年)

常にテーマを探し、数年に一度写真展を開催することを自分に課してきたからこそ、アイデアも作品も豊富に蓄えられているのだろう。

舞山「好奇心なんでしょうね。枯れるんですよ、自分自身だけだと。人や風景との出会いがあって、そのドキドキ感で生きているんです。いまだに面白いものはないかと探しに行けるのは、常にカメラを持っているおかげですからね。現在、九州産業大学で写真を教えているのですが、学生のみなさんに『自分が達成したいこと』を書いてもらう授業を毎年行っています。これまでずっと自分がやってきたことなのですが、書き出すことによって、いずれ成し遂げたいことのために今やっていること、そして次に何をやるべきかということが明確になっていくんです」

コロナ禍で開催した作品展「BOTANIZATION」、そしてこれから

ソニーイメージングギャラリーでは、2021年に作品展「BOTANIZATION」を開催した。人物と植物が一体化した、生命力を感じる作品だ。この作品はどのように生まれたのだろうか。

「BOTANIZATION」(2021年)

舞山「この撮影場所の近くにハウススタジオがあって、その周辺をロケハンしているときにここを見つけたんです。まずこの場所に惚れたんですよ」

そこは大雨が降ると広大な調整池ができる河川敷。雨で土砂が流れ込みすべてが流された後しばらくすると、肥沃な土地から勢いよくまた新しい緑が芽生える。そのルーティンを見て生命の持つ「再生する力」を感じたのだという。ここを舞台に人物を撮りたいと思ったのが始まりだ。

舞山「アイデアをまとめるには自分で絵を描くことがいちばんなので『この風景の中にこんな風にモデルが立って』という感じでスケッチして、事前にイメージを形づくる。そうするとほとんど頭の中にインプットされるから、その場で悩む必要がないんです」

展示構成は、朽ちていく植物のイメージで撮影した男性のモノクロ写真から始まり、再生をイメージして撮影した女性のカラーのポートレートにつながるようになっている。

舞山「この作品で、人物が写っていても人物が主役ではないポートレートがようやく撮れるようになったと思いました。そんな作品が撮りたいという構想はずっと前からあったのですが、脈々と考えていたイメージがやっと形にできたという達成感がありましたね」

構想を展覧会という形にするため、ソニーイメージングギャラリーの会場では可動壁も多く使用された。

舞山「8枚ある可動壁を全て使ってL字型に配置しました。まるで迷路のような空間で、手前と奥の写真が同時に視界に入る地点をいくつも作りたかったんです。設備はそれぞれのギャラリーごとに異なりますが、写真の構図を考えるように、自分で展示空間を構成できるのはいいことですよね」

舞山秀一 作品展「BOTANIZATION」(ソニーイメージングギャラリー・2021年)

2021年の展覧会「BOTANIZATION」は新型コロナウイルスの影響を受けていた時期での開催となった。

舞山「若い頃に写真展は売り込みの場と考えていたように、コロナ禍で長く会えていなかった仕事仲間をはじめ、さまざまな人が会場に来てくれて。再会とコミュニケーションの場にもなりました」

積極的に作品販売を意識してきたという舞山さん。写真家として円熟してきたこれからは、どのような活動をしていくのだろうか。

舞山「写真を撮ることと見せることって全然違う力だけど、両方が大切。今の時代、印刷物やプリントだけがゴールではないように、アウトプットにたくさんのスタイルがあるから、撮ることと見せることがダイレクトにシンクロしなくなってきている。だから、どうやって写真展や写真集として発表するマインドに達していくかということが重要だと思うんです。一方で、レコードが最近また売れ出したのと同じように、プリントを生で見る良さも根付いてきていて、写真を買う人も増えてきている。これからもそれらが続けられるように、頑張ろうと思っています」

インタビュアー:安藤菜穂子
/ 制作:合同会社PCT

舞山秀一(まいやま・ひでかず)

1962年福岡県生まれ。筑陽学園高等学校デザイン科、九州産業大学芸術学部写真学科卒業。半沢克夫氏に師事、1986年独立。ポートレートを中心に広告、CDジャケット、雑誌、写真集などで幅広く活躍。また作家としても、個展を定期的に開催し作品集も出版している。
1988年、第22回APA展にて奨励賞受賞。
2004年より日本広告写真家協会・正会員。
2014年より九州産業大学芸術学部客員教授就任。

https://www.maiyama.net

《主な写真集》
  • 1988年『ALIVE』(私家版)
  • 2003年『PEOPLE』(T_BOOKS)
  • 2004年『Garden 1』(T_BOOKS)
  • 2012年『die Stadt von engels』(DAYCONTACT CO.)
  • 2016年『ZOO』(図録・私家版)
《主な写真展》
  • 1990年「SWAY」(東京デザイナースペース)
  • 1994年「FORCE」(スタジオエビス・フォトギャラリー)
  • 1995年「FORCE-2」(西鉄ソラリアプラザゼファー・福岡)
  • 1998年「ALIVE」(タワーレコード渋谷店8F)
  • 2003年「PEOPLE」(LE DECO)
  • 2004年「garden」(KODAK PHOTO SALON)
  • 2006年「We Love Panda」(CONTACT GALLERY)
  • 2009年「DUMMY」(CONTACT GALLERY)
  • 2011年「Shamrock Dream」(Gallery E&M nishiazabu)
  • 2012年「PHOTOGRAPHS 1986-2012」(九州産業大学美術館)
    「die Stadt von engels」(Gallery E&M nishiazabu)
  • 2014年「七菜乃×舞山秀一」(Little MOCA・台湾)
  • 2015年「NOIR ET BLANC」(神保町画廊)
  • 2016年「ZOO」(tokyoartsgallery)
    「progress」(Gallery E&M nishiazabu)
  • 2017年「The PAST and FUTURE」(Gallery Enzo・金沢)
  • 2018年「A MOMENT」(SISON GALLERy)
  • 2019年「FORCE1994」(Gallery E&M nishiazabu)
    「COCO -COME HERE-」(tokyoartsgallery)
  • 2020年「人 PEOPLE」(SmoHouse・台湾)
  • 2021年「Sign」(神保町画廊)
    「Narcissus」(tokyoarts gallery)
    「BOTANIZATION」(Sony Imaging Gallery)
  • 2022年「舞山秀一写真展」(山崎文庫)
    「icon CONTEMPORARY PHOTOGRAPHY Ⅱ」(AXIS)