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ソニーイメージングギャラリー 銀座

公募のご案内

ソニーイメージングギャラリー
展覧会経験者に訊く。
作品展から繋がる、広がる世界

Vol.6 さのりえさん/孫 佳奈さん/廣田耕平さん

ソニーイメージングギャラリーでの展覧会経験者であるクリエイターたちが、展覧会にどんな想いを込め、そして何が自分の糧となったか、当時を振り返っていただいた。

第6回は「短編動画部門」に応募し、2023年2月、人の「想い」をテーマにした映像作品展「I hope it reaches you –3つの物語–」を開催した3人の作家の対談をお届け。応募したきっかけ、ギャラリーという場の力、そこで得られた経験などを話していただいた。

(左から)孫佳奈、廣田耕平、さのりえ

⸺現在のデジタルカメラは、動画も撮れるのが当たり前になっていて、写真と動画の表現がボーダレスに広がりつつあります。ソニーイメージングギャラリーでは、その可能性に注目して「短編動画部門」の作品展公募を行っています。まず、みなさんが応募したきっかけをお聞かせください。

廣田「作品にいろいろと協力してもらうなど、二人三脚でやってきている妻が公募を見つけてくれました。自主制作映画というのは映画祭くらいしか上映する場所も機会もないので、ギャラリーでの上映に魅力を感じ、2021年に制作した『ラの#に恋をして』がちょうど応募規定の15分以内ということもあり、募集時の「日本」というキーワードがテーマ的にもハマっていたので応募しました」

廣田耕平「ラの♯に恋をして」

数々の短編映画際への出展作品。舞台は老舗の呉服店、とある男女がピアノの調律をきっかけに出会う。運命の選択が結果を導く、15分の恋の物語。

https://youtu.be/of-yt_CgfN0

「私は、在学中だった写真専門学校の先生に『孫さんの映像作品は今回の公募にすごく向いてるから、応募してみたら?』と勧められたのを後押しに応募しました。ソニーイメージングギャラリーは、先生たちが展示していたこともありますし、よく見に来ていて馴染み深い場所だったというのも動機のひとつです」

孫 佳奈「此方」

中国から日本へ留学している孫佳奈は、東京で80年以上続く豆腐屋さんのお婆さんと出会い、豆腐は中国から日本に伝えられたことを教えられる。豆腐を通じて日本と中国、ふたりのお婆さんを想う。

さの「私は地方在住で、ワンオペで動画制作をしているので、そのエリア以外の人たちにも広く見ていただく機会をずっと探していたんです。応募する勇気がなかなか出なかったのですが、今回は、ソニーイメージングギャラリーでの展示経験がある井上浩輝さんという先輩の叱咤激励がありまして、応募にいたりました」

さの りえ

「Legacy of Resilience -The ocean made us stronger」
2011年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市で、苦難を乗り越えて生きる人々の姿を見つめた。

https://youtu.be/YKJ5bruSNfM

⸺ギャラリーでの上映は、一般的な上映会やウェブでの発表とは違った空間だと思いますが、いかがでしたか?

廣田「最初は3人の作品がどのように上映されるのか想像できなかったんですが、3本つなげての上映時間が約35分というのは結果として適度な長さでした。音も聞きやすかったですし遮光もしっかりしていただいたので、空間としても映像へ没入できる、とてもいい上映だったと思います。2週間の会期中、1日10回以上各自の作品が流れているわけです、こんな贅沢な場はなかなかないですね」

「2022年8月に個展を開いたんですが、そのときは写真がメインで、映像は小さなディスプレイで流すかたちでした。今回は映像がメインで、暗く区切った空間のなかで、壁面いっぱいの大きさのプロジェクションでの上映だったので、同じ作品でも見え方が全然違うことに驚きました。ループ上映ということで、何回も何回も自分の作品を見ましたが、毎回新鮮な発見があったんです」

さの「いらっしゃっていた方の多くが席を立たずに、すべての作品を見てくださっていた。映像に入り込める、没入感のある “場の力” を感じました。作品一本をしっかり見てもらうことの難しさを実感していたので、こういう場を用意していただけてありがたかったです」

廣田「お二人の作品が流れているときにお客さんが入ってくると、僕の作品は映画なので頭から見てほしい、そもそも見てくれるかな、という緊張感と不安をもちながら在廊していたんですが、さのさんが言うように、ループ1周分、最後まで見てくださる方が多くてホッとしました。映画祭などと違って、お客様との距離が近くダイレクトな反応が感じられるのは、ギャラリー上映ならではですね」

さの「ソニーイメージングギャラリーでの上映は、空間で音を聞くことになるため、パソコンで聞いていたものとは違って、音の聞こえ方がバラバラになってしまったのは大きな反省点です。例えばYouTube用に作ったものがそのまま上映できるかというと、そうではない。上映用の調整が必要なんですね。いい経験になりました」

⸺みなさん、それぞれ違った作風の映像作品ですが、お互いの作品を見てどのようなことを感じましたか?

「東日本大震災と復興がテーマのさのさんの作品を見て、小学校5年生頃の自分を思い出しました。当然中国でも大きなニュースになって、全員で黙祷したんです。当時の感覚を思い出して、小学生の私と現在の私が、さのさんの作品の中で出会ったような、複雑な感情を抱きました。

廣田さんの作品は本格的な映画で、照明や撮影はもちろん物語も素晴らしい。留学する前、そして留学中も、両親から反対されていたので、廣田さんの作品の母親と口論になっているシーンを見て、自分の経験を思い出しました。現代社会における女性像について考えさせられるところにも共感しました」

さの「私は映像制作の経験が乏しいので、まず単純にお二人の作品に感動して、技術的にもすごいなと思ったのが、最初の印象です。ギャラリーに在廊している間、お話をさせていただく時間があったので、チーム感、仲間感が生まれて、ギャラリーを盛り上げていこうぜ!という感じになったのも嬉しかったですね」

廣田「2週間の会期の間は3人とも都合がつく限りできるだけ在廊していたので、何時間も一緒にいることが多く、自然と深い話になりましたね。気づいたら閉館時間になっていたりして。時間が経つのが早かったです。さのさんとはドキュメンタリーについて話したり、孫さんには作品のバックグラウンドをうかがったり。お二人からいろいろなことを教わったし、刺激を受けました」

さの「ドキュメンタリーにおける客観と主観の違いとか、掘り下げた話になりましたね。今回の作品は迷いながら作ったところもあったので、『もっと主観的にさのりえの目から見た景色だということを伝えたらどうか』というようなアドバイスをいただいたりして。

お二人のアーティストとしての在り方も勉強になりました。孫さんには、たくさんのお客さんが花束を持ってお祝いに来ていて。私も留学経験があるのですが、留学先でそんなに愛されるのがどれだけ大変かわかるだけに、すごいなと思いましたね。廣田さんはお話ししていて、一緒に働いてみたい方だと思いましたし。やはりそういう魅力がある方が、アーティスト、クリエイターになっていくのだなと。作品だけじゃなくて、人に愛される、そういう内面が作品にも反映されていると思うんです」

廣田「孫さんの友だちは一目見たらわかる、ユニークな方が多いんです。服装でも表現をしていて。さのさんの色々なお知り合いもいらっしゃって。お二人のお客さんがたくさん来られて最初から話をしやすい環境だったので、僕の作品の感想もストレートに聞くことができたのも、グループ展というスタイルのおかげだったのかもしれません」

⸺入口と上映スペースの間に設置された展示コーナーでは、三者三様の工夫があったのが印象的でした。

(左)奥のモニターがさの、右壁面が廣田。(右)左が廣田、右が孫。

廣田「映画だけではわからない部分があると思ったので、ポスターとスチルを展示しました。映画館のロビーのように、映画の前後に見て楽しんでいただきつつ、映画のタイトルを覚えてもらえたらと思いまして」

「私の作品は写真がベースなので、写真作品のポートフォリオを置きました。映像と写真で、写っている人は同じでも、見え方が違うかもしれない。映像と写真の関係性を考えてもらえたらと期待しました」

さの「はじめは15分に収まらなかった映像を流そうかとも考えたのですが、最終的に、釜石市から提供された被災地の地図などの資料を提示することにしました。震災、復興というのはセンシティブなテーマですが、私のひとりよがりで作ったものではなく、市のバックアップがあって作ったものでもあることを感じ取ってもらえたらなと」

⸺ギャラリーでの上映ということで、お客さんとコミュニケーションする機会も多かったのですね。印象に残るできごとはありましたか?

「かつて映像に出てくる豆腐屋さんの近所に住んでいて、結婚して遠いところに引っ越したという方が、ネットで情報を知って見に来てくれて。昔のことを思い出して感動してくださっていたのが、嬉しかったです」

さの「感想を書く紙に、若い男の子がずっと何かを書いてくれていたことがありました。廣田さんと『どういうコメントだろう』って心配していたんですが……」

廣田「アンチコメントかな、って……」

さの「『19歳の大学生です、ありがとうございます』と手渡してくれて。読んでみたら、『まさか東京で同じ東北についての映像が見れると思いませんでした。がんばろう日本、がんばろう東北』って書いてくれていたんです。一生懸命書いてくれていた姿、渡してくれたときの真剣な表情が忘れられません」

「こんなにすごいギャラリーで上映できるのは嬉しい反面、はじめは怖さの方が大きかった。でも、いろいろなリアクションを受け止めて、怖さも乗り越えて、成長できたように思います。自分の可能性を発掘したいと思って留学したのですが、今回の上映に選ばれたことで、その可能性を実感することができました」

廣田「コロナ禍で、映画祭が減ったり、オンラインになったりしていたので、そんな中で、リアルの場での上映は貴重な経験になりました。映画監督としてはまだまだステップがあるので、しっかり作っていきたいという思いを新たにしました」

さの「お友だちが被災地にたくさんいたという方に『感動した』と言っていただいたり、お客さんからパワーをいただいたことも多かったです。今回の経験で反省点も具体化したので、次の制作に活かしていきたいですね」

インタビュアー:上野 修
写真:GOZEN
制作:合同会社PCT

さの りえ

岩手県盛岡市で育つ。その後、発展途上国、アメリカの貧困街、3.11被災地で過ごし生きる力を鍛える。早稲田大学と米国大学院で学ぶ。インターンとして国連本部日本代表部で働いたことをきっかけに”日本が世界に果たす役割”を考えるようになる。帰国後、釜石市復興支援員の広報になり、仮設住宅に住みながら被災地の取材と発信を始める。同時に、司会業・ラジオパーソナリティとしての仕事も始める。2020年、当初“復興五輪”と呼ばれた東京五輪開催に際し、「被災地の人の姿を世界に伝えたい」と動画制作を始める。

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Youtube

孫 佳奈(そん・かな)

中国浙江省生まれ。2023年、日本写真芸術専門学校卒業後、東京造形大学に編入学、写真専攻在学中。サイアノタイプを用いた作品や、ドキュメンタリーの写真/映像作品などを制作。主な受賞歴に、WPPI(FIRST HALF)国際フォトコンテスト銀賞(2019年)、第47回JPS展ヤングアイ 日本写真家協会会長賞(2022年)、第38回東川町国際写真フェスティバル屋外写真展出品(今岡昌子:選、2022年)、第41回上野の森美術館大賞展「明日をひらく絵画」入選(2023年)など。

Instagram : @intokyokana

廣田耕平(ひろた・こうへい)

1992年生まれ。千葉県市川市出身。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒業。在学中に脚本・監督した短編映画「さえずり」がFOXムービープレミアム短編映画祭にて優秀賞を受賞。卒業後は、CMやMV、ドラマや映画などの現場で演出部(助監督)・制作部などを経験する。2018年から映像制作会社に勤務し、ディレクターを担当。2020年以降は自ら撮影・編集も行うフリーのディレクターとして活動中。今作の短編映画「ラの♯に恋をして」が国内外20ヶ所の映画祭にて入選入賞。

Twitter : @kushinsai_film
Instagram : @kushinsai_film