SONY

ソニーイメージングギャラリー 銀座

公募のご案内

ソニーイメージングギャラリー 展覧会経験者に訊く
作品展から繋がる、
広がる世界

Vol.2 サトウヒトミさん

ソニーイメージングギャラリーでの展覧会経験者である写真家たちが、展覧会にどんな想いを込め、そして何が自分の糧となったか、当時を振り返っていただいた。

第2回は、2017年「Layered NY」、2019年「Lady, Lady, Lady」と、ソニーイメージングギャラリーでの作品展を2回開催したサトウヒトミさん。展示でこだわったポイントや、開催することでつかんだチャンスなどを訊いた。

2016年の夏にニューヨークを訪れ、ショーウインドーに映る街や、すれ違う様々な人種の人たち、雑踏のざわめきやにおいも相まって、「複雑にレイヤーが入り組んでいるように感じ」夢中でスナップしたサトウヒトミさん。「Layered NY」としてまとめ展覧会の開催を考えた時、展示する場所はソニーイメージングギャラリーしか思い浮かばなかったという。

サトウ「ちょうど2016年9月にソニーイメージングギャラリーが銀座5丁目のソニービルから、銀座4丁目の銀座プレイスに移転したばかりのときでした。銀座の真ん中で展示ができるなんて!と思っているところに、作品展公募の話を知人に聞いたんです。大都市ニューヨークの作品を展示するなら、銀座にあるギャラリーが似合うのではないかと思い、もう他のギャラリーで展示することは考えられませんでしたね」

会場構成も作品の世界観を再現しようと考えた。特にこだわったのは、PET素材のフィルムにプリントした作品だ。透ける素材の大きなフィルムが天井からランダムに吊るされ、その間をすり抜けながら作品を見る人も作品の中に紛れ込むような空間を作り上げた。

サトウ「手前のフィルムにプリントされた写真が透けて見えるので、奥の壁に展示してある写真と混ざり合ったり、作品の間を歩く鑑賞者と写真の中の人物とが混在していると感じられるように、会場の空間もレイヤーで構成しました。この大きなフィルムによる展示は、広く天井の高い空間でないと実現できないものでした」

サトウヒトミ作品展「Layered NY」(2017年)
PET素材の大きなフィルム越しに、壁に掛かった作品と鑑賞者とが重なる、レイヤー構成の展示空間

大学時代にコンテンポラリーダンスを学んでいたというサトウさん。舞台のように、ひとつの空間をどう構成するかを考えるのが好きで、とことんこだわった。平面図を用いて構成案を考えた後は、模型を作ってシミュレーションも行った。

開催の約1ヵ月前に展示プランを提出すると、それを実現するための具体的な方法をギャラリーと相談。プリント素材、吊り下げるワイヤー、展示方法、作品に鑑賞者も溶け込んでいくような位置に吊るための方法など、ひとりでは考えきれないサポートが心強い。

サトウ「フィルムの作品はなるべく、人が通ってゆらゆらと風の動きで揺れるようにしたいという希望も伝え、何度も微調整をしてもらって…。おかげでイメージ通りの展覧会ができました。壁面に掛けたプリント作品のひとつは1枚を18分割して、それぞれゲタの高さを変えているのですが、凹凸によってもうひとつのレイヤーを作りました。やはり頭で考えるのと実際の空間で見るのとは違っていて、設営の際にその場でゲタの高さを調整してもらったんです。設営に関わってくださった方々のアイデアのおかげで、会場にいろいろなレイヤーを作りたいという要望を実現していただきました」

1枚の写真を18枚に分割してゲタの高さを変え、凹凸でレイヤーをつくった作品

ギャラリーでは4K対応液晶テレビ ブラビア®️も使用できるため、スライドショーに雑踏の音を組み合わせて、座りながらゆっくり見てもらえるスペースも作った。

サトウ「フィルムが揺れるようにしたり雑踏の音の演出をしたり、さらに私の中でのニューヨークのイメージのある香水の薫りを空間に漂わせたりと、本当にギャラリーがニューヨークになったようでした」

サトウさんはそれまで、日々撮りためた作品を画廊で展示することはあったが、メーカーギャラリーなどで本格的な作品展を開催するのはこの時が初めてだったという。

サトウ「作品展の公募に応募することも初めて。ドキドキでしたね。1次審査通過の連絡が来たときは飛び上がりました。本当にうれしくて。これは何としてでも成功させたいと、一気にテンションが上がりましたね」

さらに、2年後には作品展「Lady, Lady, Lady」も開催。こちらは、約10年間撮り続けた、パリ、ドバイ、ロンドン、ニューヨークといろんな国の女性たちを中心としたスナップ作品だ。ソニーイメージングギャラリーの作品展公募は、2年の期間をあければ再び応募することできる。

サトウヒトミ作品展「Lady, Lady, Lady」(2019年)
縦位置の写真は床から30センチという長さまで大きく伸ばした

サトウ「一度開催したことで、ギャラリーの皆さんや作品加工や設営に関わってくれた方々が完璧に仕上げてくださるということがわかっていたので、もう一度やってみたいという思いから応募しました。作りたい空間が実現できるよう一緒になって考えてくれるのもソニーイメージングギャラリーの特長。前回のフィルム素材を使った作品がたいそう気に入ってしまったので、2回目はもうちょっと空間を大きく使ってみようと、同じフィルム素材で、縦位置の写真を下まで大きくプリントするなどして展示しました。会場の中で楽しんでもらいたいという思いから、電話をしている女性の写真の向こう側で記念写真を撮れるような遊びも加えました(笑)。これもリアルの空間だからこそ、発想が連鎖していったのだと思います」

「Layered NY」ではタイトルの通りレイヤーを意識した展示構成だったが、サトウさんの写真の中でレイヤーはひとつのキーワードになっているようだ。

サトウ「『Lady, Lady, Lady』も気がつけばレイヤーになっていて。元々、重ねるということが好きなものとして自分の中にあるんだと思います。一番初めは小学生の頃、父親のフィルムカメラを使って多重露光で遊んでいたんです」

作品展開催がきっかけで繋がったチャンス

メディアなど多方面から注目が集まる機会でもある作品展の開催。特にメーカーギャラリーはメディアもマークしているし、ギャラリーの常連客の存在もある。サトウさん自身も雑誌の編集部や写真関係者に積極的にアプローチし、それが思わぬチャンスを呼び込んだ。

サトウ「一番反響が大きかったのは、『Layered NY』『Lady, Lady, Lady』両方とも、作品展開催に合わせて雑誌『日本カメラ』が表紙と口絵に作品を採用してくださったことです。まさか自分の写真がカメラ雑誌の表紙を飾るとは考えていなかったので、うれしい驚きでした。さらに『Layered NY』は自分の転機となった作品なので、様々な形で繰り返し発表したいと考えて写真賞『ZOOMS JAPAN 2018』に応募したところ、パブリック賞に選ばれてフランスのカメラショー『Salon de la Photo(サロン・ド・ラ・フォト)』の中で展示をさせていただくことになり、現地に行くこともできました。しかも、その時のカタログの表紙にも起用されたんです」

『日本カメラ』
2017年5月号表紙
『日本カメラ』
2019年5月号表紙
Salon de la Photo
2019年カタログ

その後も、「Layered NY」に来場した方との会話がきっかけで突然「プラハに行こう」と思いたち、その後、偶然にも大学時代の友人のダンサーがプラハで踊ることになり、舞台の撮影を頼まれた。そしてその写真を現地と東京で、展示することが決まったのだ。

サトウ「ソニーイメージングギャラリーでの展示とその後のことはまったく別の話ではあるのですが、銀座という出会いの多い会場でのリアルの展示があったからこそ、私を知ってもらえる機会も増え、それがプラハへと繋がったのだと思っています。『ソニーで展示をした人だったら』という信用になった面もあると思うんです。海外の方にも、ソニーのギャラリーと言えばわかりやすかったのではないかと。これは大きな展開でしたね」

目標を定めることが制作のモチベーションに

「Lady, Lady, Lady」を発表後はコロナ禍になったこともあり、海外に行って作品を撮るというよりは、いままでの作品を何度も見返したり、新たな作品シリーズを繰り返し試行錯誤したり、作品と向き合う時間が増えているという。

サトウ「海外では、二度と来られないかもしれないという高揚感の中で撮っている部分もありましたが、いま撮っているのは日常です。コロナ禍でいつもと違う制作の難しさを感じています。私はストリートスナップの作品で認知してもらっているので、まったく別の作品を作った時にどのような反応があるのだろうか、という思いもあります。それは今後作品を発表したときの評価にゆだねるしかないですけどね」

「今まで発作的に動いてきたところがあるから…悩むことばかり」と笑いながら話すサトウさんも、作品展公募に通ったことは大きな自信に繋がった。

サトウ「何が何だかわからないままやっていた時よりも、ちゃんと仕上げなければという気持ちになり、意識の変化はありました。作家の仲間入りができたのかな、という自信にはなりましたね」

作品展公募や写真賞への応募など、目標を定めて作品をまとめることが制作のモチベーションになるというサトウさん。公募への1回のチャレンジが「えいや」と踏み切る勇気へと繋がり、これまで積み上げてきた数々の挑戦が助走となって、大きな飛躍となったようだ。

インタビュアー:安藤菜穂子
/ 制作:合同会社PCT

サトウヒトミ

横浜生まれ、東京都在住。お茶の水女子大学 舞踊教育学科卒業後、日本航空国際線客室乗務員として勤務。東京ビジュアルアーツで写真を学ぶ。主な写真集に『イグアナと家族とひだまりと』(N Books・2016年)、『Layered NY』(Every Photo Books・2017年)、『crossing Prague』 (Every Photo Books・2018年)など。受賞歴に、2006年キヤノン写真新世紀佳作、2019年ZOOMS JAPANパブリック賞など。

《写真展》
  • 2017年「イグアナの息子」(神保町画廊)
    「Layered NY」(ソニーイメージングギャラリー 銀座)
  • 2018年「crossing Prague」(ライカGINZA SIX)
    「mosaic of feelings」 (ライカcafé, プラハ)
  • 2019年「Lady, Lady, Lady」(ソニーイメージングギャラリー銀座)
  • 2021年「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」出展(東京スクエアガーデン)

Instagram : @hitosun