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ソニーイメージングギャラリー 銀座

公募のご案内

ソニーイメージングギャラリー
展覧会経験者に訊く。
作品展から繋がる、広がる世界

Vol.5 𡈽屋じゅりさん

ソニーイメージングギャラリーでの展覧会経験者である写真家たちが、展覧会にどんな想いを込め、そして何が自分の糧となったか、当時を振り返っていただいた。

第5回は、若手新人写真家の活動を支援する「Future部門」の公募に応募し、2022年4月に作品展「静かな時間に」を開催した𡈽屋じゅりさん。ソニーイメージングギャラリーを選んだ理由、開催までの試行錯誤、展示でのこだわり、展覧会ならではの経験と可能性の広がりなどを聞いた。

なにげない日常のなかに垣間見える幻想的な光景を、オリジナリティに溢れた写真表現で浮かび上がらせる𡈽屋じゅりさん。はじめになりたかったのは、絵本作家だったという。

𡈽屋「ストーリーを作り、絵を描いて、それを形にするというのをやりたかったんです。十代後半から意識してやってみたものの、とても絵が下手くそで、どうしても自分の脳裏に浮かんだものが絵にならなかった(笑)。それに気づいた時に、自分の世界観を表現するための道具、手段はなんだろうと考えて、写真だったらできるかもしれないと思ったんですね。その頃はもう大学も出て、社会人になっていたので、ちゃんと写真を学び直そうと思って、仕事をしながら夜間の写真専門学校に通いました」

卒業後、カメラを通したイメージの具現化を試みつつ、コンペティションやオーディションに応募するようになった。

𡈽屋「ステップアップの基準になるような、実績と感じられるものが欲しいと思って、最初は写真系のコンペティションに応募してみたんですけど、なかなか受賞できなかったんです。スナップやドキュメンタリーなど、写真ならではの要素が前面に出ている作品と違って、私の作品は切り口がわかりにくかったのかもしれません。そこで目線を変えて、総合的なアートのコンペティションに出したところ、いくつか賞をいただけました。個展開催権を得られる最優秀賞を受賞したことをきっかけに、定期的に画廊で個展を開くようになりました」

粘り強く制作に取り組み、コンスタントに発表していくなかで、より大きなスケールでの展示にチャレンジしてみたいという気持ちが芽生えてきたという。

𡈽屋「画廊での展示というのは、自分の世界観を出すと同時に、作品をきちんと売ることが求められるという特徴があります。10点くらい新作だけでまとめる規模感の展示を繰り返しているうちに、新作や旧作とか考えずにいったんこれまでの作品をすべてまとめて、きちんと見直し、自分の世界観を重視した展示をしたいなと。写真というメディアにこだわりがあったので、カメラメーカーのギャラリーでやりたいと強く思いました」

プロフェッショナルな方々の意見によって、自分の世界観を表現できた

ソニーイメージングギャラリーを選んだ理由を、𡈽屋さんは次のように語る。

𡈽屋「やはり、自分が好きな内容の展示をやっているところがいい。そして、自分が行きやすいギャラリーがいい。というのも日中は働いているので、私が動けるのは基本的に土日、平日は夜だけなんです。閉館時間が早いとたどり着けないし、開催期間が1週間というギャラリーも多く、見逃して後悔することが年間で数えきれないくらいあります。こういう経験は私だけではないと思うので、定休日がなく、ギャラリーに行き慣れてない方でもすぐにわかる場所がいいと思いました」

新人写真家の活動を支援してくれる作品展公募「Future部門」に、約5年分から選んだ作品を応募し、無事審査に通った時は、嬉しい驚きでいっぱいだったそうだ。

𡈽屋「写真系のコンペティションになかなか受からなかったという苦い記憶もあり、おそらくダメだろうけど…… という気持ちで応募していたので、2次審査の面談の時は、就職の面談くらいに緊張しました。合格した時は『どうしよう!』ってなりましたね(笑)」

開催までの半年間は、具体的な展示プランを練り、試行錯誤しつつ、自分の世界観をいかに会場で表現するかを、悩みに悩んだ期間でもあった。

𡈽屋「画廊での展示はスペースも狭く、作品を販売するという目的もあったので、お部屋に飾ってもらいやすい、小さいサイズ感の作品でまとめることが多くて、額装も絵画風に工夫していました。小さく仕上げた作品は自分でも好きだったし納得していたんですが、いつの間にか、自分の作品は小さめのサイズだけが合っているんだと思い込んでしまっていた部分があったんです。作品を大きくしてみたかったはずなのに、大きくするのに抵抗を感じてしまっていたんですね」

迷ったり、不安になったりした時に、頼りになったのが、親身になって共に考えてくれるソニーイメージングギャラリーの担当者のアドバイスだったという。

𡈽屋「ギャラリーの空間を知りつくした担当者さんと、一緒に現場でサイズを検討してみることで、納得しながら制作を進めることができました。大きなサイズでプリントしたり、作品によってプリント用紙を変えてみたりと、展示をアップグレードするための作品制作費用をFuture部門でサポートしていただけたのも、すごくありがたかったです。もし自費だったら、大きなサイズでの展示はあきらめていたかもしれません。展示プランをまるっと変えたり、最後の最後までバタバタしつつも、なんとか搬入までたどり着くことができました」

展覧会は、さまざまなアイデアを取捨選択しつつ具現化していく場でもある。𡈽屋さんは、細部にも繊細にこだわりつつ、ゴールへと向かっていった。

𡈽屋「シンプルな額装の大きめの作品で世界観を構成しつつ、真ん中に2つ置いた可動壁に絵画で使われるようなの額の作品を飾ってアクセントをつけました。ストーリー性を大切にしたいので、文章を組み込みたかったのですが、そのバランスにも悩んで。最終的には削ぎ落として、アシストするくらいの文章を少しだけ入れることにしました。書斎の机の引き出しを開けたら書きかけの原稿があったというイメージにしたくて、額もホームセンターに行って引き出しっぽいものを自作したんです」

可動壁の新たな設置方法により、空間に奥行きが生まれ、作品の世界観を表現

実際の展示は、可動壁をそれまでにはないかたちで使うなど、ギャラリーから見ても新しい試みが盛り込まれた、作品の世界観を引き立たせる空間となった。

𡈽屋「展示プランは事前にしっかり考えていたのですが、可動壁の微妙な位置、作品の高さや間隔などは、設営の現場でアレンジを加えました。それまでの展覧会では、搬入や設営もすべて自分でやっていたので、プロフェッショナルな方々のアドバイスが、とても心強かったです。ものすごく快くフレキシブルに対応していただいたおかげで、どうにか着地できました。いま思い出しても感謝しかありません」

作品の間にあるテキストの額装は、書斎の引き出しをイメージして自作した

展覧会へ訪れた方々との会話は発見にあふれている

そうして、まるごと自分の世界観で構成された会場は、𡈽屋さん自身にとっても新鮮な感動に満ちたものになったという。

𡈽屋「実際に展示空間が完成した時には、大げさではなく涙が出てくるくらい感激しました。来ていただいた方にも『臨場感がある』『作品の世界観の中に入ったようだ』といっていただくことが多かった。そうした没入感を作ることができたのは嬉しかったですね」

銀座四丁目交差点という土地柄もあって、ソニーイメージングギャラリーには、写真やカメラ、アートの関係者はもちろん、一般の方もたくさん訪れる。そうした方々とのコミュニケーションも展覧会ならではのできごとだ。

𡈽屋「来場された方々の『写真のことは全然わからないけれど』とか『はじめて見るんですけど』という言葉からはじまる会話も多かったです。それと同時に『どうしてこの並びなのか?』『作品によってプリント用紙を変えているのはなぜ?』といった深掘りした質問もいただきました。ほんとうにいろんな方から感想を聞いたり、質問に答えたりしながら、いままで考えていなかったことへの気づきもあって、展示しながら勉強させていただきました」

𡈽屋じゅり作品展「静かな時間に」(ソニーイメージングギャラリー・2022年)

今日では、ウェブ上で写真を発表することも一般的になっている。また、コロナ禍ではウェブギャラリーでの発表などの試みも多く行われた。しかし、展覧会は、ネットとは違った可能性に満ちていると、𡈽屋さんは感じている。

𡈽屋「なんといってもウェブの利点は、不特定多数の方に気軽に見ていただけることですが、それはまた、一方通行になりやすいということだと思うんですね。そこが寂しいし、満足感も得られにくい。ウェブだと、デバイスによって大きさも色味も違っていて、どういう環境で見ていただいているかもわからない。展覧会は、サイズや質感など、五感で感じられるものがある。それはウェブ上では伝えきれないものですね。展覧会ならではの臨場感は、ほかの発表方法からは得られないものだと実感しました」

展覧会の開催、そこでのさまざまな人との出会いは、活動のモチベーションアップにもつながっていると、𡈽屋さんはいう。

𡈽屋「展覧会を開かなければ出会うことがなかった、出版関連の方やギャラリー関係の方にもご挨拶できました。ネットで自分の名前を検索した際に、ソニーイメージングギャラリーでの私の展示情報が上に出てくるのも嬉しいです。今後も同じテーマでの制作を続けていきたいと思っていますが、同時に、もう少し幅広く、他のテーマの展示も試みてみたいと思うようになりました。今回の展示が自信につながったので、積極的にアプローチしていきたいと考えています」

インタビュアー:上野 修
写真:GOZEN
制作:合同会社PCT

𡈽屋じゅり(つちや・じゅり)

カルフォルニア州生まれ、東京都在住。東京ビジュアルアーツ専門学校写真科Ⅱ部卒業。アマナイメージズ契約作家。風景写真を中心に広告写真なども撮影。また、ウェブサイトのイメージ画像用としての写真提供も行っている。個展や、アートイベントへの出展でも国内外で精力的に活動中。主な受賞歴に、第15回上野彦馬賞九州産業大学賞受賞(2014年)、ACTアート大賞展写真部門 最優勝賞(2015年)、CANON GINZA presents SHINES 第2回ファイナリスト(2019年)など。

ウェブサイト:https://juligraphy.com/photo/