Vol.3
潜水撮影ロボット「リリー」が解き明かす、海底1,000メートルの深海世界
海洋/水中フォトグラファー、探検家、プロダイバー
アレクシス・ローゼンフェルド
(Alexis Rosenfeld)
海洋調査を通じて、人々が海についての理解を深め、環境保護に関心を持つことを目的に活動するユネスコ協賛のプロジェクト『Foundation 1 Ocean』。そのプロジェクトを指揮するアレクシス・ローゼンフェルドは、ソニー・ヨーロッパから資金提供とサポートを受け、Black Whales Picturesのアントワン・ドランシー(Antoine Drancey)(※注釈)と共同でソニーのαカメラを搭載した潜水撮影ロボット「リリー(Lily)」を開発し、深海の世界の様子を発信しています。水深1,000メートルに広がるのは、果たしてどのような世界なのでしょうか。 (※注釈:水中・探検・科学分野で映像や音響技術に特化したサービスを提供するフランス拠点の制作会社。世界の海洋で海事科学遠征やドキュメンタリー撮影などを行うアントワン・ドランシーが代表を務める)
アレクシス・ローゼンフェルド(Alexis Rosenfeld)
海洋/水中フォトグラファー、探検家、プロダイバー
フランスを拠点に世界の海洋で活動を続けるフォトグラファー。8歳のときに出会ったダイビングをきっかけに海の虜に。ユネスコ協賛の海洋プロジェクト『Foundation 1 Ocean』を指揮する1人。彼の作品はフランスのみならず、世界中の主要メディアから発表されている。
アレクシス・ローゼンフェルドが指揮する『Foundation 1 Ocean』
“1 Ocean”に込められたユネスコ協賛のプロジェクトとは
もしあなたが異世界からの訪問者で、宇宙から初めて地球を目にしたときーー「あれは水の惑星だろう」と考えるのではないでしょうか。さらに「表面積の71パーセントが水で覆われているこの青い星では、知的生命体はどこに存在しているのか…?」と尋ねたくなるかもしれません。
ユネスコ協賛のプロジェクト『Foundation 1 Ocean』を指揮するアレクシスと仲間たちは、海洋調査という役割を担いながら、人々に海についての理解を深め、保護に関心を持ってもらうことを目的に活動しています。活動の対象は「世界中すべての人々」。なぜなら全員がひとつの海に属し、責任を共有しているからです。
「人々は文字通り『ひとつの海』に頼りながら生きています。プロジェクト名の『1 Ocean』には、そうした思いが込められているのです」とアレクシスは説明します。「この世界は海でつながっています。地中海は大西洋へと流れ込み、大西洋は太平洋へ、太平洋はフィリピン海と南シナ海へ。それがインド洋へと流れ込んで、また大西洋へと戻ってきます。海だけがこのようなつながりを持っているのです。そのつながりによって、大きな恩恵を受けることもあれば、最悪の事態も起こり得ます」
「ひとつの場所で生じた作用や乱れが、別の場所に大きな影響をもたらします。そうした結果が、海洋汚染をはじめ、生物環境の減少や消滅として確認されているのです。私たちのミッションは、海洋の健康状態とその重要性を世界中の人々に伝えること。上空からでは海中で実際に何が起きているのかをイメージするのは難しいーー海も湖も、水面ではきらきらと美しい光を反射させ、その下に遺棄されているものを隠してしまうからです。そこで、私たちの新しいメンバーである『リリー』の出番です。きっと大きな役目を果たしてくれるでしょう」とアレクシスは笑顔を見せます。
水中撮影の可能性を格段に広げる潜水撮影ロボット「リリー」
「リリーのおかげで、深海を覗く新しい目を手に入れることができた」
潜水撮影ロボットであるリリーを利用することで、水中撮影の可能性とクオリティが格段に上がるとアレクシスは考えています。撮影されたものはすべて、プロジェクトの最終目的である海洋の探究と教育のために使われることになります。「リリーはBlack Whales Picturesのリーダー、アントワン・ドランシー(Antoine Drancey)と共同で開発し、ソニー・ヨーロッパから資金提供とサポートを受けています。アントワンは操縦士、私は撮影を担当しています。リリーのおかげで、深海を覗く新しい目を手に入れることができました。水深1,000メートルでの作業に対応し、5ノットのスピードで走行可能、光ファイバーで遠隔ステーションに接続され、まるで自分もそこにいるかのように見ることができます」
「こうしたプロジェクトを行う上で、深海のありのままの姿を撮影した写真や映像は非常に重要な素材になります」とアレクシスは続けます。「深海では常に新しい発見があります。そこで得たストーリーを人々に語り、事実を伝えなければなりません。リリーには深海撮影での要となる新型のLEDライトが搭載され、ソニーのα1とモニターレコーダーが取り付けられるように設計されています。おかげで高画質のRAW画像(※撮像素子の出力を記録した非圧縮の生データ)や4K、8Kの動画の撮影が可能になりました。また、ソニーのαシリーズはデザインが統一されているため、低光量下でのビデオ撮影の際にはα7SⅢに付け替えることもできます」
こうしたリリーの性能は、アレクシスの海洋での活動範囲を大きく広げました。「水温が低く、水深の深いエリアでも、海底火山や熱水噴出孔のように水温の高い、特有の生態系があるエリアでも、ロケーション状況に左右されることなく撮影できるようになりました」
しかし深海の神秘の発見の裏で、リリーが見せてくれる世界は深刻な問題を抱えています。
「海底1,000メートルの世界ーーそこはプラスチックの墓場になっている」
「リリーはプラスチックごみの問題を浮き彫りにしました」とアレックスは沈んだ声で言います。「1 Oceanとリリーを通じて目にするものの大半は、実はプラスチックなのです。プラスチックごみの問題は、誰もが知っていることかもしれません。しかし撮影したものを見れば、もっと恐ろしく感じるはずです。水面下の世界を知るという目的に立ち返れば、プラスチックこそ、人々を震え上がらせる存在だと言えます。海岸や海面などで目にするプラスチックは全体のたった2パーセント、残りの98パーセントはすべて海底に沈んでいることがわかっています。水中にあるプラスチックは環境に大きなダメージを与え、取り除くのも容易ではありません。リリーのおかげで海底1,000メートルの世界を目にすることができるようになりましたが、悲しいことに、そこはプラスチックの墓場になっているのです」
「そうした墓場では、1970年、もしくはそれ以前のプラスチックも散見されます。道に捨てられ、川に投げられたゴミが、最後に海へとたどり着きます。私たちはリリーで撮影した映像を使い、プラスチックは分解できないという事実を明らかにしたいのです。視界から消え、気にかけなくて済むようになっても、プラスチックはどこかに残り続けています。実際、マイクロ、ナノサイズにまで砕かれたプラスチックのほうが危険です。そうした極小のプラスチックは最終的に食物連鎖に取り込まれ、海洋生物のみならず、すべての生物の命を脅かすことになります。『ひとつの海』でつながっていることを思い出してください。プラスチックは、食料に含まれて私たち全員にまた戻ってくるのです」
「リリーは、まだ見ぬ世界を発見し、海洋に対する視野を広げてくれるはず。私たちの活動を支えてくれているソニーには感謝を伝えたい」
「リリーは新しい仲間です。ソニーのα1とα7S Ⅲと共に、リリーは海洋に対する視野を広げてくれるはずです」とアレクシスは最後に語ります。「これはまだ始まりにすぎません。リリーが全力を見せてくれるのはこれからです。それが素晴らしいものであれ、そうでないものであれ、私たちがまだ目にしたこともない世界を発見する助けになってくれるでしょう」
「この先、どの海洋を訪れ、何を探索するのか。また、海の実情を世界に向けてどのように発信していくのか。私たちはさまざまな可能性とアイデアで溢れています。状況を好転させるのに、まだ遅くはありません。そのための活動を支えてくれているソニーには感謝を伝えたいです」